シュナイザーが本陣で祈りにも似た言葉を口にしていた頃、戦場では激烈かつ壮絶な戦闘が繰り広げられていた。
 ハイドン率いる第二軍と、エルストラ率いる第三軍とが、千人単位の群集団に別れ、四方八方から戦場に殺到した。
 戦場ではメガシオンたちによる殺戮が続いていた。雪原は一面、人馬の死体で覆いつくされており、まるで赤い湖が突然、出現したかのごとく、雪という雪が真っ赤に染まっていた。だが、そのような悲惨で凄惨な光景を目の当たりにしてもエルザリオン軍の新手が怯むことはなかった。むしろ、直面した現実を目の当たりにして、より一層、戦意を高揚させ、メガシオンたちに対する敵意を新たにしたようにさえ感じられた。

「全軍、戦闘用意! 総攻撃、開始ッ!」

 各軍、各隊の指揮官たちが咆哮を発し、エルザリオン軍がメガシオンたちに立ち向かう。急編成のにわか仕込みであるにも関わらず、各隊の統制はよく取れており、各隊は隊の指揮官に従ってそれぞれの方向へと向かって走り、標的と定めたメガシオンに向かって攻撃を開始した。
 何十万という矢が放たれ、何万本という槍が一斉に投じられる。人間側からの先制攻撃がなされ、メガシオンたちの身体に次々と命中していく。高い金属音が響いた。
 その刹那だった。
ドルルルルルルルルルルルルルルッ!
 メガシオンたちの容赦ない反撃がエルザリオン軍を襲った。二五ミリ重機関銃が猛烈な勢いで弾丸を発射し、荷電粒子砲や電磁砲が次々と連射される。それはまさに死神の鎌による一撃と同義だった。

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 二五ミリ重機関銃が猛烈な勢いで火を噴き、巨大なセラミック製の剣が振り回される。そのつど死が量産され、戦場は瞬く間に処刑場と化した。雪原は人馬の血で赤く染まり、肉片が散らばり、ボロ布のようになった死体が延々と転がっているその光景は、まさに地獄と呼ぶほかなかった。
 この時、第四軍と第六軍を襲うメガシオンを迎撃するため、待機していた第二軍と第三軍が出撃し、側面からの攻撃を開始した。それぞれの軍の指揮官はアルデラ・ハイドンとカルナキア・エルストラである。
 アルデラ・ハイドン率いる第二軍と、カルナキア・エルストラ率いる第三軍は、共に対メガシオン戦に特化した軍となっており、「一体対一隊」戦術を戦闘の軸に据えていた。
 メガシオンとの決戦にあたってエルザリオン軍が採用した「一体対一隊」戦術。これは千人規模の兵集団を一隊として、その一隊をもってメガシオン一体と戦わせるという戦法である。隊の中核にはメガシオンとの戦闘経験が豊富な特戦隊の人員が配置されており、なまじ大規模で無秩序な集団戦闘をおこなうよりは効果的ではないかと考えだされた策だ。この戦術は他にもクルス・メルリッカー率いる第七軍と、カイル・ルー率いる第八軍にも採用されており、もし通用しなかった場合、ルザリオン軍は体制を立て直すため、時間稼ぎとして苦肉の戦術を使用せざるを得なくなる。
 第二軍と第三軍が戦闘を開始したとの報告を受け、シュナイザーは、多大な損害を被った第四軍と第六軍に再編成をおこなうよう命じる通達を出すと、滲み出る焦りと苛立ちを必死になって抑えながら呟いた。

「アルデラ、カルナキア、頼むぞ・・・・・・」

 短くも、無限と思えるほどの長い時間、シュナイザーは本陣で待っていることしかできない。それが総指揮を任された彼の役割であり、部下を信じるべき上司の責任であることを承知していたからだ。どのような理由があれ、彼がこの場から離れることは、部下や味方たちに対する背信行為に直結する。

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 この惨状を目の当たりにして、グロス・レーバテインとルド・ファイファインが相次いで指示をだす。退却の指示だ。

「退け、退け、退くんだ! 全軍に後退の合図を!」
「これ以上の攻撃は無意味だ。退却する。退け!」

 第四軍と第六軍は、両軍将の支持に速やかに従った――というよりも、退却命令を聞いた瞬間、タガが外れたように我先にと逃げ出した。それは整然とした退却と呼ぶには程遠く、むしろ雑然とした逃走に近かったが、逃げる将兵たちにそんなことを考える余裕はなかったようである。みな、自分が逃げることに必死で他人に構っている余裕がなかったからだ。そのため、退却の際には少なからず混乱が生じ、それに伴って犠牲者もでたが、そのことに気を向ける者は極少数であった。
 こうしてエルザリオン軍による最初の攻撃は一方的な虐殺で幕を閉じたのだが、戦いはまだ始まったばかりである。今度はメガシオンたちによる反撃が開始された。
「黒い城」の「城門」が開き、中から次々とメガシオンたちが姿を現す。数体、数十体どころではない。数百体ものメガシオンたちが一斉に出撃し、逃げるエルザリオン軍に向かってきたのだ。それはさながら、冬眠からむりやり起こされた熊たちの行動に酷似していた。
 メガシオンがエルザリオン軍を追いかける。速い。とてつもなく速い。その走る速度たるや馬よりも速く、必死になって逃げる人間たちよりもずっと速い。しかも中には空を飛ぶ固体も含まれており、「黒い城」から出撃したメガシオンたちはたちまち第四軍と第六軍に追いついた。
 戦いではなく殺戮が開始された。

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 鉄壁を誇る城壁に次々と穴が開き始めた。それはエルザリオン軍の攻撃によるものではなく、「黒い城」側が自発的に開けた穴であった。
 その穴から奇妙な砲塔が次々と顔をだす。一見、火砲のようにも見えたが、よく見ると砲弾を発射する穴が開いていない。薄い透明色の棒状のようなモノが突きでているだけだ。と、次の瞬間である。その棒が強烈な光を発し、それが線となってエルザリオン軍を襲ったのだ。
 いったい、何事が生じたのか。エルザリオン軍の多くの将兵たちはまるで理解できなかった。いや、理解できた者はひとりとして存在しなかっただろう。しかし、受けた損害は巨大だった。光の線が放たれた部分にいた将兵たちが軒並み殺害されたのだ。
光が消えると、辺りには奇妙な死体が散らばっていた。上半身が消失した死体、身体の半分が消えている死体、手足や頭部だけを残して胴体部分のみが消えている死体など等だ。光の線による攻撃を受けた者は、みな線に触れた部分がこの世から完全に消失しており、その傷口は黒く炭化していて一滴の血すら流れていない。死んだ者の中には重装甲の甲冑を身につけている者もいたが、甲冑はその役目を果たせずに一緒になって消えていた。
 防御不能なこの奇怪な攻撃はエルザリオン軍に戦慄を与えた。だが、エルザリオン軍を襲う悪夢はまだ始まりに過ぎなかったのである。
「黒い城」から次々と光の線が放たれる。その攻撃がエルザリオン軍を貫くつど、数十から数百人単位での死者が続出した。防御は絶対に不可能で、遮蔽物はいっさい役に立たない。攻撃が消えると、辺りは身体の一部や大半が欠損した死体で埋め尽くされており、辛うじて命を落とさずにすんだ者たちも悲惨な状況にさらされていた。脚を失って這いずる者、傷口を押さえながら転げまわっている者、母親や恋人の名前を叫びながら泣きじゃくっている者と様々だったが、攻撃を受けて無事な者はひとりとしていなかった。まさに地獄絵図。もはやこれは戦いなどではなく一方的な虐殺に近かった。

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 この「ヴォルガ総反攻作戦」においてエルザリオン軍が果たすべき役割はすでに決まっている。それは「囮」である。エルザリオン軍は率先してメガシオンたちの拠点である「黒い城」に攻撃を仕掛け、城内にいるメガシオンたちを引きずりだし、その注意を自軍に向けさせる。その間にカルナップ軍とルドリア軍が総攻撃を仕掛け、「黒い城」の陥落を目指す――という手筈が作戦の根底にあるからだ。
 一見してエルザリオン軍がもっとも苦労するであろうことは明白である。しかし、作戦の発案がエルザリオンによるものである以上、エルザリオンの苦労はある意味では仕方がないことであった。そうでなくては、とてもではないが三カ国は連合軍など形成できなかったであろう。
話は戻る。
 エルザリオン第四軍と第六軍の猛攻は続いている。投げられる岩、放たれる巨大な矢、発射される金属の砲弾の数はすでに万を超え、その多くが「黒い城」に命中していた。普通の城であればこれほどの攻撃にさらされれば無傷ではすまない。城壁は徹底的に破壊され、城内の建物は軒並み瓦礫の山と化し、立てこもる敵軍は精神的に追いつめられて降伏するか、自暴自棄の攻撃をしかけてくるか、あるいは自死するかどれかの道を選ぶであろう。
 だが、本陣で待つシュナイザーの元にもたらされた情報は絶望的なものであった。

「第四軍および第六軍による攻城攻撃、効果なし」

 第四軍と第六軍の攻撃は「黒い城」に次々と命中しているのだが、文字通り傷ひとつ付けることができなかったのだ。ほんの少しの「汚れ」をつけるだけで精一杯だったのである。
 その間にも戦場では変化が生じていた。
 いままで沈黙を保っていた「黒い城」に動きがあったのだ。

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Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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