「各地を治める諸侯の中には先の戦乱で自前の軍隊を失った者たちが多くいる。その者たちに売り込むんだ。常勝無敗のディルク兵団なら必ずや支援者が見つかるだろう。上手くいけば地方政権の中枢に深く食い込むことができるかもしれないぞ」

 ディルクは頷いた。それは彼も考えていたことだからである。

「確か、ブレスト地方を治めるホーディル候ルアロズが先の戦乱で自前の軍隊を失っていたはずだ。候はまだ四十歳と若いが、すでに不治の病に侵されていて先が長くないと聞く。跡を継ぐ息子ローシュは一一歳とまだ幼い。付け入る隙がありそうだな」
「わかった。交渉は俺に任せてくれ。必ずや結果を持って帰ってきてみせる」

 そう言ってジークはわずかな護衛を伴ってブレスト地方へと出立した。
 ブレスト地方は王国の南部に位置しており、土地は肥沃で地下鉱物資源にも恵まれ、その富力のほどは王国でも上位に位置している。そのため、かつては強力な騎士団を保有していたのだが、その騎士団は先の戦乱で壊滅している。壊滅させたのは属国のシュターレン騎士団だとされているが、実際はシュターレン騎士団領国に雇われたディルク兵団の仕業であった。
 もし、ブレスト地方を合法的に支配することができれば、そこを中心として地方王国を築くことができるかもしれない。徴兵権と徴税権を欲しいままにできれば、さらに強力な軍隊を構築することも可能だ。そうなれば王国打倒への道が開けたも同然である。
 将来への展望を想像しながらディルクは呟いた。

「頼んだぞ、ジーク」

 半月後、帰還したジークがもたらした報せは「朗報」だった。

「喜べ、ディルク。ホーディル候はディルク兵団の身柄を引き受けるそうだ」

 むろん、幾つかの条件が提示されたが、常識に収まる範囲であったから、ディルクは即座に了承した。

「さぁ、いくぞ。新たなる一歩の始まりだ」

 王国暦三二〇年一〇月一八日、ディルク兵団はホーディル家の私兵集団として正式に認められた。
 その三日後、ホーディル候ルアロズが急死し、息子のローシュが家督を継いだ。その後、ホーディル家では、ローシュの親族や古くから仕えてきた者たちが相次いで事故や病気で死亡していくことになるのだが、それはまた別の話である。

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 ディルク兵団はその後も各地の戦場で活躍を続け、兵団の規模は結成四年目にして三千名を越え、ナトゥース国内ではトゥナイゼル戦団に次ぐ規模を誇る傭兵団へと変貌を遂げた。
 だが、その年に転機が訪れた。
 王国暦三二〇年八月一〇日、国王マイモンド二世が病に倒れ、急死したのだ。後を継いだのは王弟のレイモンドだった。当初、次期国王にはマイモンド王の娘であるエリアス姫の王位継承が有力視されていたのだが、彼女はマイモンド王の死後、行方不明になってしまい、消息を絶ったのである。噂によればレイモンドによって暗殺されたということだが、真相が解明されることはついになかった。
国政には無関心で、酒宴や狩猟、そして好色といったことにしか興味を示さなかった兄王と違って新国王となったレイモンドは国政に対し精力的だった。
 王位に就いたレイモンドがまずおこなった政策は、全ての戦争行為の即時停戦だった。
王国暦三二〇年当時、ナトゥース王国は隣国のエストリア大公国との戦争、属国のシュターレン騎士団両国との紛争、その他、有力な貴族間での私戦や内戦を大小四つほど抱えており、さながら国家全体が火薬庫のような状態となっていたのだ。
長引く戦乱によって民には重税が課せられ、人々は困窮し、戦乱によって増大する戦死者数が国の人的基盤や経済的基盤に深刻な打撃を与えていた。生産悪化に伴う食料や物資の不足、治安や秩序の悪化、貧困層の拡大、国家に対する人心の離反などなど。レイモンドはそれらの問題を解決すべく根源であった戦争行為を止めさせることによって国を建てなおそうとしたのである。
レイモンド王の政策は功を奏し、ナトゥース王国の状況は急速に改善していった。
 窮乏したのが有事を食い物としていた傭兵や私兵といったならず者たちだった。国から戦いが消えれば彼らの稼ぎ口がなくなる。食い扶持を失った彼らの一部は武器を棄てて労働者に転職したが、多くは野盗や盗賊、山賊や強盗といった犯罪者と化した。各地で略奪や強盗が激増した。
 多くの傭兵団が解散を余儀なくされるなか、ディルク兵団はまだ集団としての秩序を維持していた。他の傭兵団と比較して兵の質が高かったことと軍律が厳しかったこと、それに資金や糧食がまだ豊富に残されていたことが幸いした。
 だが、働き口もないままいつまでも三千名の兵を養うことはできない。このままの状態が続けばいずれ兵団が瓦解してしまうことは明白だった。
 そこでジークが提案したのが兵団の身売りだった。

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ディルクがかつての傭兵団に所属しているとき、ジークに話したことがある。自分がナトゥース王国全体を憎悪しており、いつか必ず復讐してみせる、という野望を。逃亡以来、自分の本音を吐露したことは初めてのことであった。
ジークは呆れず、笑わず、怒りもせず、真剣な眼差しでディルクの話を聞き終えると、彼に対して協力を惜しまないことを約束した。そしてその約束通り、ジークは常にディルクに対して忠実であった。
 ・・・・・・ある時、ディルク兵団がとある古城を攻め落とした際、略奪した財宝の山の中からジークが奇妙なモノを発見した。それは紙でも金属でもない不思議な材質を使用して作成された一枚の「カード」だった。裏側には紋章とも国旗ともつかぬ絵柄が刻まれており、表側にはおぞましい魔物の姿と奇妙な文字が描かれている。ジークはそれを手に取り、ディルクに見せた。

「なぁディルク、これがなんだか分かるかい?」
「? さぁ、知らんな。タロットかトランプの一種か?」
「これはかつて栄えた超常の古代帝国の遺物だ。なんでもその古代帝国では、超常の力を用いて異世界や異次元から魔物を召喚し、このカードに封じ込め、いくさの際に解放して戦力として活用していたといわれている。帝国の崩壊と共に魔物を解放する術は失われてしまったそうだが、カードはこうして時を越えて現在まで残され、古代帝国の存在を今に伝えているそうだ。もしこのカードの謎を解き明かすことができれば、封印されている魔物たちを解き放ち、いくさの際の強力な戦力として活用できるかもしれないな」
「・・・・・・そんな話、どこで聞いたんだ?」
「子どもの頃、学んでいた歴史学の家庭教師から聞いたんだ。なんでもその家庭教師が言うには、ナトゥース王国では密かにこのカードに関する研究が進められていて、いずれは戦力として活用することを目指しているそうだ。どうだ、興味深いだろう」

 胸を張りながら説明するジークに対し、ディルクは信じていない様子で肩をすくめて見せた。

「ふん、くだらん。そんな与太話は酔っ払いでも話すことができる。それよりも兵たちへの分配を始めよう。今回のいくさでは相当な額の戦利品が稼げたんだ。十分な額の報酬を支払ってやろうではないか」
「・・・・・・まったく、おまえは現実主義者だな」

 苦笑しながら今度はジークが肩をすくめた。ジークとて、カードの話は本気で信じてはいない。しかし、後にこのカードの存在がディルクらの運命を大きく変えることになろうとは、この時はまだ知る由もなかった。

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 父親であるオットーが金鉱山への投資に失敗してバエルン家が破産したのだ。偽の情報に踊らされて屑鉱山を購入してしまい、金の採掘はおろか、坑道の落盤事故によって労働者に多数の犠牲者が出て鉱山開発が中止になってしまったのだ。多額の負債だけがバエルン家に残された。
 借金の形として屋敷や土地、荘園や酒造所、そして奴隷など、バエルン家が保有していた資産は全てが奪われた。むろん、屋敷の地下に蓄えていた金銀財宝も。それでもなお、バエルン家の負債を全て完済することは不可能であった。
 父親であるオットーは自殺した。妻であるジークの母親を道連れにして。

「私は頭が悪かったのだ・・・・・・」

それがジークが聞いた父親の最後の言葉であった。
 両親は無理心中を図ってこの世を去って解決したが、残されたジークはまだ長い人生をこれから消費せねばならなかった。それも暗く閉ざされた人生を、である。
 ジークは借金の形として競売にかけられ、とある男性貴族にその身を買われた。その男の下での生活は約一年に及ぶのだが、その間のことを、ジークは酒を飲みながら語ったことがある。

「いや~、本当に最悪な一年間だったよ。その間に何度、裸にされて鞭打たれたことか。何度、尻の穴を掘られたことか。何度、臭くて汚い吐き気を催すモノをしゃぶらされたことか。いや~、本当に、まったく最悪な一年間だったよ!」

 笑いながら、ジークは泣いていた。そしてその話をするつど、吐くまで酒を飲み、死んだように眠るのだった。
 約一年に及ぶ地獄の日々に耐えたジークは、その後、隙をついて男性貴族を殺害して逃亡者となった。そして紆余曲折を経て、ディルクがいた傭兵団に入団したのである。
 年齢が近いという理由でディルクがジークを指導するよう命じられた。ディルクは当初、貴族出身であるジークを嫌悪していた。貴族とは彼にとって憎悪の対象であって決して仲間とはなりえぬ存在だったからだ。

「いずれ機を見て殺してやる・・・・・・」

 当初はそう考えるほどの間柄でしかなかった。
 だが、行動を共にしている間に、ディルクとジークの間に友情が芽生え始めた。生まれ育った環境がまったく真逆であったにも関わらず、現在は同じ環境で生活しているゆえであったかもしれない。もしくは、戦場で互いに助け合ったときに生まれた絆がきっかけかもしれない。あるいは、ただ単純に年齢が近かったという些細な理由だったかもしれない。いずれにせよ、ディルクとジークは友情を成立させ、以後、ジークはディルクの右腕として活躍するようになる。

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 普段は口数が少ないディルクであったが、友人であり副団長であるジークとは良く話をした。兵団の運営に関する重要な会談から他愛のない雑談にいたるまで、時には酒を酌み交わしながら公私をまじえて、ディルクとジークは語りあった。
 ディルク兵団は結成三年目にして団員総数二千名を誇るまでに急成長を遂げていたが、その背景にはジークの尽力があったからだといわれている。と言っても、彼が戦場で立てた武勲はほとんどない。ジークの活躍の場はもっぱら後方支援であった。
資金の管理や調達、糧食や物資の確保、敵対勢力に対する諜報活動と情報の収集、雇い主との交渉などなど、兵団の命脈とも呼ぶべき重要な任務は全てジークが担っていたのだ。むろん、ディルクも資金や糧食、情報の大切さは理解している。しかし、ジークのそれには及ばない。才能もあっただろうが、それ以上に、ジークが高度な教育を受けていたことが様々な後方支援を可能にしたといって良いだろう。
 ジークは貴族出身だった。
むろん、そのことをディルクは承知している。承知して副団長の地位を与えたのだ。彼に対する信頼を内外に示すために。
 ジークは中堅貴族バエルン家当主の長男としてこの世に生を受けた。一〇歳まで彼は何不自由なく暮らすことができていたといってよい。身の回りの世話は全て侍女や使用人がこなしてくれたし、飢えによる空腹に苦しむこともなかったし、望む物はくだらない玩具から高価な衣類にいたるまで全てを手に入れることができていた。まさにディルクとは正反対の半生。ゆえに、その分、彼は勉強に力を傾倒することができた。
 ジークの父親であるはバエルン伯オットーは、事あるごとに息子に言って聞かせた。

「いいか、ジークよ。この世でもっとも偉大な力は人間が有する知識と頭脳だ。知能が高ければどんな難敵も打ち倒すことができ、頭がよければどんな困難も克服できる。だから息子よ、おまえはとにかく勉強をしなさい。多くを学び、多くを知りなさい。学んだことはいつか必ず役に立つはずだ」

 父親の言うことを聞いてジークは勉強に精をだした。語学、文学、数学、医学、音楽、歴史、経済、果ては用兵術にいたるまで、それぞれの学問に専属の家庭教師が就くという徹底ぶりで朝から晩まで勉強した。学ぶことが好きだった性格も幸いしたのだろう。ジークは勉強をするつど上達を続け、一〇歳になる頃には並の大人では比較にならぬほど優れた知能を有するにいたっていた。
 しかし、突然の不幸が彼を襲う。

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プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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