怒りのあまり、ひとりが「音楽」を奏でていた拷問吏に命令をだした。その奴隷どもを全員殺してしまえ! と。「楽器」として奏でられていた奴隷たちはそのひと言によって永遠に音を奏でなくなった。
 それでも怒りが収まらない彼らは口々に叫び合った。

「これは王国に対する明確な反抗だ、反逆だ! すぐにでもエステル・フォンライトを殺すべきだ!」

 それが室内に響く意見の大勢であった。もし、エステル・フォンライトが配下の剣闘奴隷たちを率いて反乱を起こしたとしたら、そしてその奴隷たちがみな「エンチャント・カード」で武装していたとしたらどうなるか。もしかしたら、シャトルフ二世の御世におこった〈トーランの乱〉を凌ぐ大規模な反乱になるかもしれない。確信のない不吉な過程が重臣たちの心に暗い影を落としていた。
 ゼルキア・ザムエルが国王に進言した。

「陛下、魔法騎士団より精鋭を選りすぐってイースレイ地方に派遣いたします。どうか、エステル・フォンライト抹殺の許可をください」
「許可する」

 国王の返答は短く、そして即決だった。
 翌日、ゼルキア・ザムエルより密命を受けたキュレム・ログハット率いる魔法騎士一個小隊がイースレイ地方のカザフを目指して王都を出立した。
 奴隷に肩入れする者はことごとくが悲惨な末路を辿っている。魔学博士のフィリップス・ヨーゼフしかり、慈愛の魔法使いマリア・テレサしかり、作家のケスラ・ロスキュリアスしかり、大貴族アルフレット・フォンライトしかり。エステル・フォンライトもまた、彼らと同じ末路を辿るのだろうか。
 それとも・・・・・・。

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 室内の空気が一変した。発言者であるグランツェルを含む出席者全員が、先ほどまでのだらけきった表情を一転させて厳しい表情を浮かべている。
 このエンチャント・カードという魔具を使用すれば、魔法が一切使えないはずの奴隷でも魔法を使えるようになる。それは王国の基盤を揺るがす事態であった。魔法使いの優位性はこれまでは彼らしか使うことができない「魔法」という力によって保たれてきた。それがこのエンチャント・カードの出現によってその優位性が失われるかもしれないのだ。出席者たちは深刻な脅威を覚えずにはいられなかった。

「誰なのだいったい、こんな物を作った奴は!」

 ゼルキア・ザムエルが黒檀のテーブルに拳を叩きつけた。憤慨し、感情を爆発させたのは、自分たちの特権が脅かされるかもしれない、という恐怖からであったかもしれない。
 グランツェル・ロスキュリアスが静かに告げた。

「製作者の名前は異端の魔学者アルゴス・ヨーゼフ。魔法学界を追放されたフィリップス・ヨーゼフの孫にあたる人物で「狂気の天才」と称されているそうです。そして、彼の支援者こそが、没落したフォンライト家の現当主エステル・フォンライトなのですよ」

 無数の息を飲む音が聞こえた。グランツェルはさらに続けた。

「彼女はいま、このエンチャント・カードの取引と闘技場での興行によって巨万の富を得ています。しかも所有する剣奴の数はゆうに千人を越えているとか。もし、彼女の力がこのまま増していけばいずれどうなるか、賢明な諸卿らならすぐにお判りになるでしょう」

 グランツェル・ロスキュリアスの言葉が終わるや否や、重臣たちは激発の咆哮を発し、怒りを爆発させた。

「あの娘、野たれ死んだのではなかったのか!」
「な、なんて物を作ってくれたんだ!」
「これはこの国の根幹を揺るがす大事件だ。早くどうにかしなくては!」
「まったく、父親といいその娘といい、ことごとくこの国の害悪でしかない!」

 重臣たちは怒り狂った。

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すると、カードが消失し、身体に魔力がみなぎってきた。しかもそれは、本来であれば自分が使えぬ系統の魔力だったのである。
 ガッテン・イゼーナが指を動かした。炎の精霊と契約を結んでいない彼は本来、炎の魔法を使うことができないはずだが、動かした指からは炎が矢となって放たれ、拷問を受けていた奴隷のひとりを貫いた。心臓を焼かれた奴隷は短い悲鳴を発し、そのまま絶命した。
 他の者たちも、自分が使えぬ系統の魔法が使えることに気づき、それぞれ試しに魔法を使ってみた。放電がおこり、風が吹き、大理石の床が盛り上がる。カードを使用した全員が、本来であれば自分が使えぬはずの魔法が使えることに驚き、目を丸くした。

「ロスキュリアス殿、これはいったい・・・・・・」
「これがこの「エンチャント・カード」と呼ばれる魔具の力です」

 厳かな口調でグランツェルは続けた。

「エンチャントとはすなわち「付与」という意味ですが、このカードを使えば一時的にですが、それぞれのカードの種類に応じた魔法を使うことができるようになるのです。そう、魔法使いはもちろんのこと、庶民でも、そして奴隷でも」

 最後の言葉が出席者たちの鼓膜を突いた瞬間、室内の空気が変貌した。

「ど、奴隷でも魔法が使える、だと?」

 震えた声で質問したのはベスディア王であった。過度に太っており、緩慢な動きしかできなぬ王であるが、グランツェル・ロスキュリアスの言葉の重大さが理解できぬほど、彼は愚鈍ではなかった。

「はい。現にこのカードが売買されているイースレイ地方では、魔法を使う奴隷同士の戦いが興行として成り立っております。特にカザフの町にある闘技場は連日大盛況で、なかでも戦歴三〇〇戦全勝を誇る剣闘士「神速のリュード」という男は、このエンチャント・カードの使用にずば抜けて長けているとか。みなさまであればこれがどれほど深刻な事態であるか、すぐにお判りになるでしょう」
「・・・・・・ッ!」

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「ではダメですな。このカードはその五つの系統しか種類がありませんので。他の方でその二つ以外の系統で使えない系統はありますか?」

 何人かの重臣が手を挙げた。性格や嗜好はともかくとして、彼らはみな優秀な魔法使いである。しかし、だからといって全ての系統の魔法が使えるとは限らない。大抵の場合、扱う系統は多くても二つか三つだ。使えない魔法の系統がひとつやふたつあったとしてもそれは別に恥ずべきことではない。

「私は炎の魔法が使えない。炎の精霊とは下級でも契約を結んでいないからな」
「自分は水と風の魔法だ。イゼーナ殿と同じく精霊と契約していないのでね」
「雷の魔法が使えんな。苦手なんだ、稲妻が」
「土の魔法が使えない。汚いからな、土は」

 それを聞いて、ロスキュリアスは挙手した人物たちにカードを配った。
それぞれ、炎の魔法が使えない者には赤色のカードを、水の魔法が使えない者には水色のカードを、風の魔法が使えない者には緑色のカードを、雷の魔法が使えない者には黄色のカードを、土の魔法が使えない者には茶色のカードをだ。
 カードを手にした者はすぐに理解した。このカードにはかなりの魔力が秘められている、と。

「このカードの特徴は、それぞれの色のカードに各系統の魔力が秘められているということです。赤色のカードには炎の魔力が、水色のカードには水の魔力が、といった具合にね。そして、絵柄として記載されている精霊の力を借りることができます」
「どうやって使えばよいのだ? 破けばよいのか? それとも歯で噛み千切ればよいのか?」
「衣服の上からでも肌に直接でも良いのでカードを強く身体に押し当ててください。さすればカードは分解され、カードに秘められている魔力が身体に吸収されますので。魔法行使に伴う身体的疲労はありますが、カードそれ自体は害がないことは確認済みなのでご安心を」

 カードを渡された者たちは互いに顔を見合わせ、一瞬だけ不安げな表情を浮かべてからグランツェルの指示に従った。カードを身体の一部に押しつける。

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「そういえばいましたな、そのような人物が」
「確か、フォンライト家の現当主の名前ですよね。没落した名家の」
「王都を出て以来、行方不明と聞いておりましたが、ロスキュリアス殿はなにかご存知なのですかな?」

 グランツェルは頷いた。

「ええ。ごく最近、地方からの報告で彼女の話題を耳にしまして。ですがその前に、前置きとして話しておきたいことがあります。みなさんは「エンチャント・カード」という魔具をご存知でしょうか?」

 グランツェルの質問に対し、ほとんどの者が首をかしげた。みな、「初めて聞いた名称だ」といった顔つきをしている。ベスディア国王やゼルキア・ザムエル軍務大臣の反応も彼らと同様だった。
グランツェル魔法大臣は彼らの無知を嘲笑うことなく話を続けた。

「みなさんがご存知ないのも無理はない。この魔具はつい最近、王国の端にあるイースレイ地方で登場した物だからです。これがその実物です」

 そう言ってグランツェルは懐から取り出した五枚のカードをテーブルの上に並べた。大きさは手の平に収まるほど。それぞれ、カードの縁が黄色、赤色、水色、緑色、茶色で彩られており、絵柄が記載され、名前が記名されていた。その名前は実在する精霊の名前であり、絵柄はその姿そのものであった。
 国王のベスディアが首を傾げながら問うた。

「グランツェルよ、これはいったいどういう物なのだ?」

 グランツェルは告げた。

「説明するよりも、実際に使用した方が判りやすいでしょう。ザムエル卿、あなたに使えない魔法の系統はありますか?」
「光と闇だ。それ以外の五つの系統は使える」

 ゼルキア・ザムエルが質問に答えた。長身だが、痩身で目つきの鋭い人物だ。彼はグランツェル・ロスキュリアスよりも年長者だが、口髭を生やしていない分、彼よりも若く見える。

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Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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