「まさか・・・・・・そんな・・・・・・」
「凄い! 信じられない!」
「あわわわわ・・・・・・」

 驚愕する男たちを見やりながら、エリアスが勝ち誇ったような声を放った。

「いかがですか、私の力は。信じていただけましたでしょうか」

 信じるもなにも、実際に魔物を召喚されたのでは信じないわけにはいかない。大胆不敵なディルクとて、自らの考えを否定せずにはいられなかった。

「伝説は真実だったのか・・・・・・しかし、いったい、どうして召喚の方法を・・・・・・?」

 この後に及んでもはや嘘をつく必要はない。その問いに対してもエリアスは真実を用いて回答に応じた。

「王家に伝わる伝承によれば、ナトゥース王国の開祖アルジャーノ一世は、歴史の彼方に葬られた超常の古代帝国エリューシオンの末裔だといわれています。彼はナトゥース王国を建国するにあたり、古代帝国が残した遺物であるこのカードを使って異形の軍勢を組織し、王国を開闢したと伝えられています。王国建国後、アルジャーノはカードを使用することを禁じましたが、魔物の召喚方法は代々、王家の者が秘密裏に受け継いできたのです。いずれ再び、このカードを駆使する時が訪れるであろうと予測して」
「なるほど・・・・・・そうでしたか・・・・・・」

 得心がいった。そして姫が自らに「力」があるということにも納得した。確かにこの力は、国をも滅ぼしかねない強大な「力」だ!
 表面には出さず、心の中でディルクは笑った。この千載一遇の好機を存分に活用すべきだと考えて。
 エリアスがカードを払う仕草を見せ、呪文を唱えた。すると、猿魔鬼・ゴユグルグなる異形の怪物が虚空へとその姿を消した。まるで雨上がりの空にかかった虹のように、存在の痕跡すら残さずに。

「そういえば、まだ返答を聞いていませんでしたね。ローシュ殿は私に協力していただけるのでしょうか?」

 そう言ってエリアスはローシュを見た。ブレスト地方の若き総督は、口から泡を噴いたまま気絶し、床に転がっている。とてもではないが、答えられる状態ではなさそうだ。だからこそ代わりにディルクが返事をしたのである。その言葉こそが、実質的にローシュが発する言葉と同義なのだから。

「ローシュ総督の臣下を代表して自分が代わりにお答えさせていただきます。姫様の協力の申し出、ぜひ受けさせていただきたい。必ずやあなた様の目的を叶えてみせましょう」

 エリアスは聡明な娘だ。ここまでくればもう理解した。このブレスト地方の真の実力者が誰なのかということを。
 ディルクに対し、エリアスはにこりと微笑んだ。それはディルクの笑みに似た、悪意を内に秘めた危険な笑い方だった。

「ありがとう。それで、あなたの名前は?」
「ディルク。血塗れのディルクと申します」
「! あなたが、あの・・・・・・戦場の死神・・・・・・」
「ご存知のようで光栄です、姫。このディルク、微力ながら生命を賭して、あなたに協力させていただきますぞ」
「あなたが私の味方となってくれれば心強い。これからよろしく頼むわ、ディルク」
「はッ」

 ・・・・・・こうして秘密裏の協定が結ばれたのである。それは王国全土を震撼させることになる大事件の序曲であった。

以下、スポンサーリンク


スポンサーサイト
line
 ジークからカードを受け取ったエリアスが呪文めいた言葉を口にしはじめた。

「トルク・レトム・ナザフ、アグル・ケルド・フフル、サブル・ナブサ・レムド、アルガ・レホマ・セドラ・・・・・・」

 それはいままで聞いたことがない言葉であった。聞いているだけで背筋に悪寒が走り、不快感で全身の毛が総毛立つような言葉だ。普段、自分たちが口にしているナトゥース語とは明らかに違う。否、大陸の他のどの国の言葉とも異なっている異質な言葉だ。まるで、異なる文明形態によって成立したとしか思えない言葉だった。

「まさか、な・・・・・・」

 超常の古代帝国の伝説をディルクは信じていない。そんなものは狂人の妄想であって史実ではない。そう思っている。
 だからこそ・・・・・・信じていないからこそ、目の前で発生した異常事態に驚かずにはいられなかった。
 エリアスが静かに言葉を終えた。

「・・・・・・出でよ、猿魔鬼・ゴユグルグ」

 突如、何も無い空間に赤い光を放つ魔方陣が出現した。
 そしてその魔方陣を裂いて出現したのである。
 背中に蝙蝠のような翼を持ち、ゴリラ以上の巨躯を有する、赤い目を爛々と輝かせた凶暴な形相をした巨大な猿が、だ。

「オギャアッ! オギャアアアアアアアアアアッ!」

 産声のような咆哮を発し、巨大な猿の化け物がエリアスの前に立ちはだかった。自らを召喚した彼女を、まるで母親として慕うかのように。

「な、な――ッ!」

 部屋にいる男たちは誰もが例外なく驚いた。ディルクは驚愕で目と口を大きく開けたまま硬直し、ジークは畏怖と狂喜を混ぜ合わせたような表情で絶句し、ローシュにいたっては腰が抜けたのか座り込んでしまい、失禁までしている有様だ。誰もが非現実的な光景に驚かずにはいられなかった。

以下、スポンサーリンク


line
「あの・・・・・・ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんでしょう」
「あなたは先ほど、これまでの経緯を話すなかで自分には「力」があるとおっしゃった。それは発揮すれば一国を制圧できるほどの「力」だと。その「力」がどのような「力」であるか、もしよろしければ教えていただけないでしょうか」

 ジークはもともと貴族出身であり、王家や宮廷に関する様々な秘事に精通している。ゆえに、エリアスの会話の一端から、なにか思い当たる節があったに違いない。
 ジークの質問に対し、エリアスは一瞬、沈黙した後、口を開いた。彼女なりに考えて、話すべきだと結論したのだろう。おもむろに話だした。

「私が有している力・・・・・・それは、超常の古代帝国が残した遺物を用いて魔物を召喚し、使役する力です」
「! やはり! その遺物とは、このカードのことではないですか?」

 半ば叫ぶように言いながらジークが取り出したのは、以前、とある城を攻め落とした時に応酬した戦利品の中に混ざっていたカードだった。あの時以来、ジークはお護り代わりとして持ち歩いていたのだ。
 エリアスが静かに頷いた。

「はい、それです。そのカードのことです」

 ジークが色めき立った。狂喜の感情を爆発させ、人目もはばからず、驚きと喜びの叫び声を上げて身を乗り出す。

「本当ですか!? 信じられない! もし、可能であるならば、いまこの場にてこの魔物を召喚してみてください。もし本当に召喚できれば、その力は大きな戦力になる!」
「わかりました。私の力を端的に示すためにも、ぜひともやらせてください」

 ふたりのやり取りを聞いてディルクは呆れた。

「おいおい、本気か? 勘弁してくれ、まったく」

 と内心で思いつつも、口にはださない。超常の古代帝国に関する伝説など、彼は信じていないからだ。だから好きにさせたのだ。どうせそう時間を取ることなく済むだろう、そう考えて。

以下、スポンサーリンク


line
 エリアスは密かに動いていた。侍女たちを手なずけ、自分を監視する兵士たちを篭絡させ、王都への報告に虚偽を混ぜて油断を誘った。その作業に半年の時間をかけた。

「叔父よ、いまにみているがいい・・・・・・」

 エリアスは心の中で叫んだ。
 自分を殺さなかったことを後悔するがいい、と。
 エリアスには力があった。いまこの場では発揮できぬ力だが、その力を使えば一国をたやすく制圧できるほどの力だ。
 その後、エリアスはわずかな側近たちと共に隙を突いて古城を脱出し、各地に身を隠しながら逃避行を続け、王国の領土をほぼ横断する形でブレスト地方へと逃げてきた。ブレスト地方を治めるローシュの助力を得るために。

「・・・・・・以上が、私が王位奪還を目指すにいたった理由です」
「なるほど。随分とご苦労をされたようで、その心中、察するにあまりあります」

 話を聞き終え、ディルクがうやうやしく低頭した。端から見れば心から相手を同情し、思いやっているように見える。しかし、内心で吐露した本音は口にした言葉とは裏腹のものであった。

「なにが王位奪還だ。結局、この娘は自分が叔父に先手を取られたことが悔しいだけじゃないか。単なる逆恨み、否、わがままだ。これではたとえ王位を奪い取ることができたとしても、長く維持することはできないだろうな」

 だが、この好機を利用しない手はない。エリアスは前国王の娘で、王位の継承権も保有している。この二点だけでも十分に利用する価値がある。偶然にも懐に飛び込んできたこの幸運、存分に活用させてもらうとしよう。

「この娘を利用する。そして王国に破壊と滅亡をもたらしてやる」

 悪意を込めてディルクがそう結論づけた時だった。
 後ろに控えていたジークが声を発した。

以下、スポンサーリンク


line
 戦闘が勃発し、そして半時とかからず終結した。
エリアスを支持していた王族や貴族たちはほぼ全員が殺害された。そして彼らの象徴であったエリアスは捕らえられ、王都から遠く離れたグライス山の頂上にある古城に幽閉されることとなったのである。
レイモンドはエリアスを送り出す際、その出発に立会った。

「本来であれば命を奪って将来への禍根を根絶することこそが最良の策なのだろう。だが、姪の命を奪うは忍びない。ゆえの追放措置だ。国の平和と安定のため、受け入れてくれるとありがたい」

それが叔父の別れ際の言葉であったが、エリアスからしてみればたまったものではない。自らが預かり知らぬ間に事が勃発し、いきなり身分を剥奪されて自由を奪われたのだ。屈辱と怒りの炎を両眼にたぎらせながら、エリアスは内心で誓いを立てた。

「いまに見ているがいい・・・・・・」

 必ずや叔父を王位から引きずり下し、王位を奪還してみせる。
そう決意して、エリアスは王都を去った。
 古城での生活は決して悪くはなかった。エリアスの居住区域は改装されて豪華な調度品が用意されたし、身の回りの世話をする侍女たちもダース単位で揃えられた。食事の量と質は王宮のソレと比較して遜色のない物が提供されたし、冬場は一日を通して火が焚かれ、飢えや寒さとは無縁の生活が送れるよう配慮されていた。書物も、絵画も、美術品も、楽器も、宝石も、望めばすぐに用意された。時には著名な演奏家や有名な道化師が古城を訪れ、娯楽の提供にも事欠かなかった。
レイモンドとしては姪が古城で穏やかに暮らしていけるよう配慮したのだろう。だが、エリアスは憎悪を膨らませる一方だった。
 ある日、エリアスは信頼する侍女に語ったことがある。

「私は優雅な生活を営む飼い犬より、名誉ある野良犬としての道を選ぶ」

 驚いた侍女はそのことをエリアスを監視している衛兵に報告すべきか迷ったが、結局は胸にしまっておくことにした。姫の信頼を裏切れない、という気持ちが強かったからだ。それにこの職を失えば実家への仕送りが出来なくなってしまう。エリアスが覗かせた唯一の隙は、こうして表ざたになることを防がれたのである。

以下、スポンサーリンク


line
line

line
プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

line
アクセスカウンター
line
最新記事
line
月別アーカイブ
line
カテゴリ
line
モッピー
モッピー!お金がたまるポイントサイト
line
ハピタス
日々の生活にhappyをプラスする|ハピタス
line
sub_line
日本ブログ村
line
日本ブログ村
line
リンク
リンクはフリーです。どうぞテキトーにお貼りください。
line
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

line
sub_line