「ラヴァクト帝国を呼称する未知の勢力はおそらく王国にとって強大な敵となるに違いない。王国はきっと大混乱に陥るはずだわ。その時、わたしがどのような選択をするかはまだわからない。でも、必ず動く。そして動くなら、国の中枢である王都に近い場所にいた方がいい。そう思わない、アルゴス?」
「賢明な判断だと思います。その決定に自分は賛同します」
「他の者たちはどうする? 逃亡を選択するのであれば止めはしない。選別として持ち出したカードも与えよう。だがもし、まだわたしに着いて来てくれるのであれば力を貸して欲しい。わたしにはおまえたちの力が必要だから」

 剣闘士たちが声を上げた。

「着いて行きます! 我ら一同、エステル様にどこまでも着いて行きます!」

 エステルは頷き、それからリュードを見た。
 顔に強い意志を感じさせる微笑を浮かべて。

「さぁ、王都へ戻るわよ、リュード。いつまでも泣いてないでシャキッとしなさい、シャキッと。これからあなたの力がもっと必要になってくるんだから、いつまでも泣いてないでしっかりしなさいな」

 リュードは涙を拭い、改めて決意した。エステルのために命を賭けて尽くすことを。

「はい、エステル様!」

 ・・・・・・この夜、カザフの町は陥落した。他にも第七十二先遣師団の攻撃を受けたジゼルの町、ロベルタ市、ウルスス市など、ピレーネ山脈の麓にある辺境地帯はラヴァクト帝国軍によってことごとく制圧された。だが、戦争はこれで終わりではない。むしろこの前哨戦は始まりに過ぎないのだ。
 まもなく夜が明ける。
 皇帝シュトライザー率いる総兵力一二〇万の帝国軍本隊がピレーネ山脈を越えようとしていた。

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「申し訳ありませんでした、エステル様!」

 跪き、頭を垂れ、涙を流して謝る剣闘士たちに対し、エステルがかけた声は悔しさを押し殺したものであった。

「・・・・・・謝る必要はないわ。あなたたちはよくやってくれた。だからもう泣かないで」

 本来であれば彼女自身が泣きたい心境であるに違いない。にも関わらず、気丈に振る舞うエステルの姿を見て、リュードの目から不覚にも涙が零れた。ずっと傍にいたリュードだからこそ、涙せずにはいられなかったのだ。
 一三歳という幼さでフォンライト家破産という憂い目に遭いながらも、その後、エステルは運命に屈することなく抗い続け、このカザフの地で再起を図り、力を蓄えてきた。権力、財力、そして武力をも手中に収め、そしてついに行動を起こそうとしていた矢先だったのだ。それがラヴァクト帝国と呼称する謎の軍集団の襲撃によって、これまでエステルが苦労して築き上げてきたものが一夜にして灰燼に帰してしまった。その悔しさと悲しみはいかほどであろうか。エステルの心境を想い、リュードは泣かずにはいられなかった。
 だが、リュードが想うよりも遥かに強靭な意志と不屈の闘志がエステルの心には宿っていた。喪ったモノを嘆くような愚行をエステルは犯さない。そんなことをしても意味がないからだ。ただ前を見て先へと進むことだけを彼女は考えていた。
 アルゴスがエステルを気づかうように尋ねた。

「エステル様、これからどうしますか?」
「王都へ戻る」

 アルゴスの問いかけに対し、エステルは即答した。

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 最初の攻撃で魔法使いたちの居住区域が徹底的に破壊された。魔法使いたちに対する恐怖と憎悪が帝国軍から「容赦」という二文字を除外させていた。銃撃と砲撃が一瞬の隙もなく加えられ、雇われていた魔法使いたちは抵抗はもちろんのこと、何が起きたか理解できぬまま死んでいった。
 その後、グライス・トールは攻撃を一時停止させ、工場に勤務している奴隷や警備を担当している剣闘士たちに降伏と投降を呼びかけた。彼らにとって奴隷たちは同じ血が流れる同胞である。できれば傷つけ、殺したくなかったのだ。だが、彼らの願いとは裏腹に、工場に勤める奴隷たちはその呼びかけに応じなかった。奴隷たちにとっては主人であるエステルの命令は絶対であり、命を賭してでも護るべきものであったからだ。
 グライス・トール中佐は再三に渡って降伏と投降を呼びかけたが、受け入れられないとわかると強攻策に討って出た。配下の部隊に攻撃を命じたのである。
 暴徒鎮圧用の無力化ガス弾が使用され、突入が強行された。
 帝国軍の攻撃に対し、剣闘士はもちろんのこと、労務を担当する奴隷たちも武器を持って抵抗した。催涙性を伴う無力化ガスに苦しめられながらも、彼らはエンチャント・カードを使い、魔法を使って戦った。
 初めて遭遇する魔法攻撃の前に帝国軍は苦戦を強いられたが、彼らには強力な重火器があった。重機関銃が猛烈な勢いで火を噴き、対人用携行ミサイルが発射され、列を成した無反動砲が斉射され、手榴弾を次々と投げつけて抵抗の力を徐々に削いでいった。
 剣闘士と奴隷たちはそれでも必死になって戦ったが、やがて耐え切れなくなった。約三〇分の戦闘で七二三名が死亡し、一一六五名が捕虜となり、残りの者は命からがら逃亡してエステルの元へと走った。それぞれが手に持てるだけのエンチャント・カードを握りしめて・・・・・・。
 辛うじて持ち出すことに成功したわずかなエンチャント・カードを差し出しながら、エステルの元へと辿りついた剣闘士たちはもう一度、謝罪の言葉を口にした。

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「わかったわ、屋敷へむかいましょう。でも、応急処置だけはさせてちょうだい。それだけは譲れないわ」
「わかりました」

 実際、リュードの傷は酷い状態だ。無処置のまま放置しておくことは、後々、命に関わる危険性が生じてくる。
リュードは了解し、アルゴスも手伝って、止血や傷口の消毒などの簡易的な処置を済ませると、三人は再度、屋敷を目指して行動を開始した。
 だが、結局は、三人の行動は徒労に終わることとなる。
 三人が到着したとき、エステルの邸宅は業火によって包まれていたのだ。周囲の炎による延焼が火災の原因だと思われた。激しく燃える邸宅は、もはや手の施しようがない状態だった。
 残酷な光景を目の当たりにしながら、エステルは拳を硬く握り締め、歯を食いしばった。滲み出る悔しさが誰の目にも明らかだったが、なおも追い討ちがあった。

「エステル様! エステル様ぁ!」

 遠くで声がした。
 声がした方向に目をやると、こちらへと向かってくる一団がいた。よく見ると、彼らはエンチャント・カード製造工場の守備に就いている剣闘士たちであった。人数は一〇〇人ほど。全員が傷つき、血を流している。無傷の者はひとりもいない。エステルの脳裏に不吉な予感が走った。
剣闘士たちはエステルの元へ辿りつくなり、膝をつき、頭を垂れて謝罪の言葉を口にした。

「申し訳ありません、エステル様! 我々が不甲斐ないばっかりに、カード製造工場が襲撃を受け、破壊されてしまいました!」

 ・・・・・・エステルら三人がジークフリート・キャルゼスら帝国軍特務小隊と激戦を繰り広げている頃、エンチャント・カード製造工場でも激しい戦闘がおこなわれていた。カード製造工場の制圧と破壊を命じられたグライス・トール中佐率いる一個大隊の奇襲攻撃を受けたのだ。

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「ぐウッ!」

 爆発に飲まれながらもリュードは後方へと跳んだ。
 なんとか死の顎から逃れられたものの、リュードの身体は爆炎に包まれて燃えており、無傷とはいかなかった。服が焼け、皮膚がただれ、肉の一部にまで炎が到達していたが、それでもなお意識を保ち、生を繋げ止めることに成功していた。ただし、辛うじてではあったが。

「リュード!」

 エステルが駆け寄り、崩れ落ちそうになったリュードを支えた。すでに慢心創痍のリュードであるが、エステルの無事な姿を見て、若干、心が休まった。

「リュード、大丈夫? しっかりして!」
「ご無事でなによりです、エステル様・・・・・・」
「わたしのことはいいから、あなたは自分のことを心配しなさい! 酷い傷よ、すぐに手当をするから!」

 左腕の複雑骨折、内臓の損傷、そして全身火傷と、リュードが負った傷は深い。常人であれば激痛で意識を失うか、あるいはすでに死を迎えていてもおかしくない惨状である。だが、リュードの口から発せられた言葉は、自分の身体を気づかうものではなかった。

「それよりもエステル様、まずは先にお屋敷へと戻りましょう。燃え盛る火の手も心配ですし、またいつ敵の襲撃があるかもわかりません。いまは一刻も早くお屋敷へと戻り、書類を確保すべきです」
「リュード、あなた自分がどうなっているかわかっているの!?」
「わかっています。たぶん、まだ死にません。だからこそ、進言しているのです」

 エステルがなおもなにか言葉を放とうと口を開きかけた時、アルゴスがリュードの意見に加担した。

「自分もリュード殿の意見に賛成します。リュード殿の治療はあとで自分が必ずや責任をもって行いますので、いまはまず、屋敷へと戻るべきです」
「けど――」

 エステルはそこまで言葉を口にして、途中で止めた。ふたりの腹心からそう進言されては、上司といえども、その意見を無下に扱うことはできなかったのだ。エステルはふたりの意見を受け入れた。

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プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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