「者ども、静まれ! まだ戦いが終わったわけではないぞ。敵はまだ何か仕掛けてくるかもしれん。警戒を怠らず、それぞれ持ち場について備えよ!」

 カリギュラの予感はまったく正しかった。この時、遠く離れた帝国本国では慌しい動きが生じていたのだ。皇帝シュトライザーより連絡を受けた帝国軍残留部隊が「ノーデンスの槍」の発射準備にとりかかっていたのである。
 ノーデンスの槍とは大陸間弾道ミサイルの別称である。飛距離七二〇〇キロメートル、全長七五メートル、搭載可能トン数一トン、製造本数は実に二〇〇発。それら全てが帝国内の各軍基地より一斉に発射されたのである。パラドックス大要塞を目標として。
 発射された大陸間弾道ミサイル・ノーデンスの槍は、発射後、わずか数十秒で大気圏を突破すると、宇宙空間を移動し、その後、マッハ二〇という速度で大気圏内への再突入を果たし、機体を摩擦熱で焼きながら、指定された座標めがけて急降下を開始した。
 無数の人工の流星群が暗雲を切り裂き、パラドックス大要塞に降り注いだ。
 凄まじい轟音が地の果てにまで轟き、パラドックス大要塞に破壊の神が降臨した。ノーデンスの槍の弾頭部分には気化炸薬系の弾薬が搭載されており、それが二〇〇発、連続して要塞に命中したのだ。どんなに堅牢な要塞も、この攻撃にはひとたまりもない。巨大な爆発が衝撃波を伴って立て続けに生じ、破壊は地面を抉り地下まで達して、パラドックス大要塞は一瞬にして瓦礫の山と化した。立てこもっていたカリギュラ大将軍をはじめとする七〇万のアスフォール軍将兵たちは誰ひとりとして助からなかった。爆発の衝撃に巻き込まれ、あるいは崩れた瓦礫の下敷きとなって、人為的な破壊による絶命を強制させられたのである。
 パラドックス大要塞の攻防戦は帝国軍の勝利で幕を閉じた。そしてこの戦いの終結によって、アスフォール王国の命運は決定したのである。主要な全ての兵力を失った魔法王国は、もはや手足をもがれた蟹に等しいといえるかもしれない。

「さぁ、あとは王都を攻略するのみだ」

 モニターに映しだされたパラドックス大要塞の成れの果ての姿を眺めながら、シュトライザーは静かに宣言した。
 それは死刑執行人と同じ口調であった。

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 だが、シュトライザーはレーゲンドルフの提案に対し、首を横に振って否定した。

「核兵器は使用しない。あれは人間が用いるべき兵器ではないからな。あんなモノを使用すれば、我々は魔法使いよりも悪い人間になってしまうぞ」

 実験がおこなわれた様子をシュトライザーは自分の目で確認している。そしてその凄まじい威力を目撃して彼は思った。これは人間が使って良い代物ではない。もし一度でも使えば、この恐るべき兵器は未来永劫、必ず人間を苦しめることになるだろう、と。
 むろん、もし、アスフォール王国に敗けそうになれば躊躇なく使用するつもりであったが、その機会がなく戦争が終結すれば、シュトライザーは用意した二発の核爆弾と核兵器に関する全ての計画を破棄するつもりであった。

「では、どの「切り札」を使用いたしますか? まさか陛下ご自身が単身で敵陣に乗り込むという無茶はなされませんよね?」
「それは愉快だが、まだそんな無茶はしないつもりだ。ノーデンスの槍を使う。本国に連絡し、座標を伝えろ。それから、全軍に後退の指示だ」
「了解いたしました」

 ただちにシュトライザーの命令が実行され、第一軍に動きがあった。
 パラドックス大要塞を包囲していた帝国軍が包囲を解き、暴風雨の外側まで後退を始めたのだ。
 それを見てアスフォール軍からは歓呼が上がった。

「見ろ! 敵が退いてゆくぞ!」
「ザマぁ見ろ! 奴ら、勝てないとわかって逃げ出したんだ!」
「勝った! おれたちが勝ったんだ!」
「アスフォール王国万歳! 万歳!」

 アスフォール軍将兵たちが喜びに沸いたが、総指揮を務めるカリギュラ大将軍は素直に喜べずにいた。何かおかしい。無能でもなく非才でもない彼の直感がそう囁いていた。

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その間にも、城壁に設置されていた魔導砲が起動し、反撃がおこなわれた。魔導砲とは魔力を充填して非物理的な遠距離攻撃を実施する兵器であり、その攻撃の様相は、現在、帝国で開発が進められている高出力のレーザー兵器に酷似していた。
 魔導砲の攻撃は強力であり、それに投石器や巨大弓による攻撃も加わって、帝国軍第一軍は多数の戦死者を出しながら苦戦を強いられた。
 その様子を旗艦アザ・トース号の艦橋で確認しながら、シュトライザーは参謀総長のレーゲンドルフに語りかけた。

「敵軍はなかなかやる。我が軍が手も足もでないとはな」
「おそらく、敵軍も必死なのでしょう。すでに二度、大敗を喫しており、主戦力もことごとく失っております。ここで敗ければ後が無いという危機感が彼らを奮起させていると思われます」
「だが、敵の期待に応え、ここで我が軍が敗けてやる義理はない。さて、どうするべきか・・・・・・」

 ふむ、とシュトライザーは考えた。
 それから、彼はすぐに答えをだした。

「手っ取り早く勝つために「切り札」を使おう。それが一番効率的だ」
「ならば核をお使いになりますか? ミサイルに搭載すればすぐにでも発射可能ですぞ」

 今年の三月六日、帝国本土より離れたトプニス島で史上初めてとなる核爆弾の実験がおこなわれ、成功を収めた。その後、ウランとプルトニウムを原料とした二発の核兵器――ナイアールとラトテップ――が製造され、対魔法使い戦用の「切り札」としてこの戦いに持ち込まれていた。核爆弾は使用すれば都市ひとつを丸ごと消滅させる威力を持つ。もし、核爆弾を使用すれば、いかに堅牢な守備を誇るパラドックス大要塞といえどひとたまりもないであろう。

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一一月六日、パラドックス大要塞内は恐慌状態にあった。迫り来る賊軍を迎え撃つために出撃した各軍が大敗を喫し、しかも指揮官であるヘクトール・ザムエルとハーメル・ロスキュリアスまでもが戦死してしまったからだ。これはアスフォール軍にとっては予想外のことであり、想定外の事態であった。
要塞に逃げ込んでくる敗残兵の群れを見て、総大将のカリギュラ・グハイは顔を青く染めていた。彼は有能で才能が溢れる人物だったが、この惨状は彼の想像を遥かに超える異常事態であった。
 そこへ、皇帝シュトライザー率いる帝国軍第一軍が姿を現した。本来であればもう少し速く到達することもできたのだが、到着をあえて遅らした理由は、各地の敗残兵が要塞内に逃げ込むのを待っていたからである。シュトライザーはこの戦いでアスフォール軍を壊滅させるつもりであった。
 敵賊軍の出現に、カリギュラは半ば狂乱しながらも、要塞内の全兵力に迎撃を命じた。要塞内には敗残兵も含めてまだ七〇万を越す兵力があり、魔法使いも一万人以上いた。要塞内に立てこもって時間を稼ぎ、挽回の策を練ろうというのが、カリギュラの考えた苦肉の策であった。
 パラドックス大要塞は巨大で頑強な要塞である。半ば山に寄生するような形で建設されたこの要塞は、分厚い城壁に周囲を囲まれており、一〇〇門を越す魔導砲が設置され、投石器や巨大弓など様々な兵器が備えつけられている。守勢に立てばこもる兵力の一〇倍の敵を相手にすることも可能といわれており、アスフォールでは難攻不落のふたつ名で知られていた。
 賊軍の攻撃に備えるにあたり、カリギュラはまず、魔法使いに雷雨を伴う暴風をおこすよう命じた。少しでも攻めにくくするための措置であり、これによって要塞を中心とする半径一キロ四方は強烈な暴風雨にさらされることとなった。
 午前一〇時二八分、吹き荒れる嵐に苦戦しながらも、第一師団を先頭とする帝国軍第一軍がパラドックス大要塞に攻撃をしかけた。戦車と重野砲からの砲撃が連続しておこなわれ、要塞の城壁を砕こうと試みる。だが、要塞内では土属性の魔法を扱う魔法使いたちが奮闘しており、城壁は破壊されるつど修復され、拉致があかない。

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突撃してくるアドルフに対し、ハーメルは数億ボルトの雷の槍を放って応戦した。巨艦を一撃で沈めるほど強力な攻撃である。電撃がアドルフの人工の皮膚を蒸発させ、セラミックの骨格が剝き出しになるも、アドルフはハーメルに近づき掴みかかった。そして奥歯に仕込んでいた自爆スイッチを押したのである。アドルフの体内には先に殉職したジークフリート・キャルゼス同様に高性能の爆弾が仕掛けられており、それが作動した。
 巨大な爆発が生じ、それにハーメルは巻き込まれた。逃げ切れなかった。
 アドルフの身体が爆散すると同時に、ハーメルの身体もまた四散した。それがハーメルの最後であった。
 ハーメルの死がアスフォール軍大敗の決定打となった。
 生き残っていた王立魔法軍団の残存勢力は戦魔特務兵によってことごとく掃討され、それによってハーメルが立案した作戦も崩壊した。帝国軍第二軍の猛攻に耐えていたヒューベルト率いるアスフォール軍もやがて攻撃に耐え切れなくなり、多大な犠牲を出して敗走した。その最中、ヒューベルトは銃弾で胸を貫かれ、ハーメルの後を追った。
 王国暦九九九年一一月一日、帝国暦二七四年同日、午後一五時一五分、ザリカヤツの野での戦いは決着を見た。
 ザリカヤツの野にてハーメル率いるアスフォール軍は散った。アスフォール軍の戦死者数は騎兵二三万六七三八名、歩兵三四万一九三六名、竜騎兵六八〇五名、魔法使い八二一七名、護衛の騎士七万二八六〇名という有様であった。一方の帝国軍も、指揮官のエルリック・ナイアス、副将のナルニア・ダッチ以下、一万三二八五名の将兵が戦死を遂げたが、全体的に見てザリカヤツの野での戦いは帝国軍の完全勝利であった。
 アスフォール軍はダムトール平原での戦いに続き、ザリカヤツの野での戦いでも敗北した。だが、負けの連鎖はこれで終わりではなかったのである。
 皇帝シュトライザー率いる帝国軍第一軍が、ゆっくりと、パラドックス大要塞へと迫りつつあった。

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プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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