「昔、ひとりの男の子がいました。その男の子はある日、街で偶然見かけた美しい女の子に恋をしました。ですが自分は祖先のおこないによって貶められた身。声をかけることもできず、年月だけが過ぎて行きました。ところがある日、男の子は女の子が追放されたと聞きました。男の子は彼女の力になりたくて、いてもたってもいられなくなり、あらゆる理由をもって女の子の元へと向かいました。ただ、それだけの話です」
「そうか。少し、悲しい話だな」
「悲しくはありません。彼女が幸せなら、自分は満足ですから」
「君にならきっと良い出会いが見つかるだろう。引き止めてすまなかったな。では、自治長の件、よろしく頼むぞ」
「承知しました」

 こうして魔法自治区の初代自治長にはアルゴス・ヨーゼフが就くことになった。ただし、この時のやりとりは永久に世に出ることはなかったが。
 王国に対する帝国の統治は着実に進んでいった。皇帝シュトライザーの強力な指導力の下、帝国からの技術と没収された魔法使いたちの財が惜しみなく投下され、王国の再建と奴隷たちの社会復帰が進んだ。そのための一環としてディジレ河の河川工事もおこなわれ、多くの元奴隷たちが労働者としてその工事に携わった。そのなかには旧フォンライト家に所有された元奴隷たちもいて、彼らはいまは亡きアルフレット・フォンライトに想いを馳せていた。
 世界は新たなる時代を迎えていた。
 この時代を後世の者たちが次のように呼ぶこととなる。

「科学の時代」

 と。かつて奴隷少年であったラヴァクトが見た夢は、時を越え、現実のものとなったのであった。


 ・・・・・・数日後、旧王都を離れたふたりの姿があった。ふたりは手を繋ぎ、去っていった。ふたりの行方を知る者は、いない。


                                       完

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戦争終結後、アルゴスはシュトライザーに呼び出しを受け、告げられた。

「調べた結果、生き残った魔法使いたちの中でもっとも力がある魔法使いはエステル・フォンライトと君しかいないことが判明した。元国王のエステルには戦争責任があるため自治区を治めさせるわけにはいかない。そこで君に頼みたいのだが、どうだろうか」
「かまいません。ですが、ひとつだけお願いがあります」
「なにかな?」
「エステル様を罪に問わないでいただきたい。あの方は優しすぎただけなのですから」
「なるほど。だが、それは無理な願いだ。彼女はアスフォール王国の国王だ。その責任は取ってもらわなければならない」
「では、どのような罪に問われるのでしょうか? あなたの返答次第では、敵わぬとわかっていても、抵抗させていただきますが・・・・・・」
「なに、心配には及ばぬ。彼女に対する罰は身分をすべて剥奪したうえでの追放。それだけだ」

 それを聞いてアルゴスは笑みを浮かべた。

「感謝いたします」

 そしてアルゴスは退室しようとした。
 そんな彼をシュトライザーが再び呼び止めた。

「ところで、個人的にひとつ聞きたいのだが、良いかな?」
「ええ、なんでしょうか」
「資料によると、君は王国に対する復讐のためにエステルに加担していたとあったが、本当にそうなのかね。なにかもっと別の目的があったのではないかな?」
「・・・・・・なぜ、そう思うのですか?」
「勘、かな」
「なるほど」

 アルゴスは笑い、答えた。

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 王国暦九九九年一二月七日、アスフォール王国の王都ルクナバータは陥落し、この日をもってアスフォール王国の組織的な抵抗は終結を見た。だが、アスフォール国内にはなおも帝国軍に抵抗する勢力が存在しており、各地の地方軍、特に強力な私設軍隊を有するザムエル家やロスキュリアス家は、帝国軍に対しなおも激しい抵抗を続けていたが、翌年の三月末日までには抵抗勢力は完全に駆逐されてしまった。ラヴァクト帝国の完全なる勝利であった。
 勝者となったラヴァクト帝国は各地で奴隷を次々と解放し、身分制度を撤廃した。奴隷たちは長きに渡る抑圧からようやく解放され、晴れて自由の身となったのである。
 一方、魔法使いたちである。かつては非支配階級として横暴に振る舞っていた彼らであるが、戦争によって力ある魔法使いたちはことごとくが死滅しており、残った者たちは帝国の強大な武力に抗う術をもたぬ弱者ばかりであった。彼らは逃れられない死を覚悟し、恐怖に駆られ、昼夜を問わず泣き喚いた。
 だが、当初の予定に反して、シュトライザーは魔法使いたちに対する虐殺を断行しなかった。奴隷を無慈悲に扱っていた残虐な魔法使いたちは容赦なく処刑されたが、比較的罪が軽微な者たちの死刑は免除された。その措置を取らせた理由がエステルやリュードの奮戦であったことは疑いようがない。
 ただし、魔法使いたちは無罪放免という訳にはいかなかった。王都ルクナバータは魔法使いたちの自治区と定められ、魔法使いたちはその中でしばらくの間「隔離」されて生活を送ることを余儀なくされた。不服ではあったが、命が助かったことで、魔法使いたちの多くはこの提案を受け入れた。
 魔法自治区の初代自治長にはアルゴス・ヨーゼフが選ばれた。これはシュトライザーからの要望によるものであった。

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社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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