「・・・・・・そして俺は戻ってきた。こうして成果を持ち帰ってな」

 すべての話を終えたヴァン・クロイツァーは、大きく息を吐き出すと、大量のレアメタルが詰まった袋に手を置いた。そのわずかな衝撃で、淡い虹色に光るコイン状の金属片が袋から零れ落ち、甲板に無秩序に散らばった。それは魅惑的で、そして蟲惑的な光景であった。

「・・・・・・」

 ヴァン・クロイツァーの話を聞き終えて、アル・ゴネを筆頭に、船員たちは沈黙したまま唖然としている。全員、どんな感想を述べればいいのか、とっさにわからなかったからだ。

「そ、その話・・・・・・本当なのか?」

 アル・ゴネが、かなりの時間をおいてから発した言葉がそれであった。

「ああ、真実だ」
「・・・・・・とても信じられん話だ」
「だろうな。俺もそう思うよ」

 実際、自分が他人からこの話を聞いたならば、冗談と考えて真剣に取り合おうとはしなかっただろう。だが、アル・ゴネは、雰囲気から察するに、口では信じられないと言いながらも、信じようとしているように思われた。

「・・・・・・とにかく、お疲れだったな。まずはゆっくりと休むといい。すぐに個室と食事を用意させるから、そこでゆっくりと休んでくれ」
「それはありがたい。助かるよ」
「だが、まだ帰還の途にはつけん。もしかしたら他に生きて戻ってくる者がいるかもしれんからな。その可能性がある限り、まだしばらくはこのまま停泊させてもらうぞ」
「ああ、それでいい。俺も他に生きている奴がいると信じたい」

 だが、結局、この待機は徒労に終わる。
 ヴァン・クロイツァー帰還後、オストバール号はそのまま洋上にとどまり続けたが、一週間が経過しても、一〇日が経っても、砂浜に人影はなく、誰も帰ってこなかったからである。
 そして一ヶ月後、船長命令によって見切りがつけられ、オストバール号は旧大陸を離れ、トリエステ港へと戻ることになった。
 こうしてチェザーレが主導した第六回目の探索は、多くの犠牲者を出しながらも、たったひとりの功績によって、いままでで最大規模の収穫と成果を得て終結したのであった。

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 それこそが自分が成すべきことであり、死んでいった多くの仲間たちの死を無駄にしないための唯一の方法であった。

「・・・・・・わかった。おまえの言う通りにするよ」

 男から渡されたレアメタルを握り締め、ヴァン・クロイツァーは落ち着きを払った口調で告げた。
 その言葉を聞いて、男はほっとしたようである。表情は崩れなかったが、肩から力が抜け、高さが下がったからだ。

「――そういえば、あんたの名前をまだ聞いていなかったな。あんた、名前は?」

 ヴァン・クロイツァーにとっては何気ない質問だったに違いない。相手は予知能力とやらで自分のことを知っている様子であったが、自分は相手のことを何もしらない。ならばせめて名前だけは知りたいと思うのは必然の成り行きであろう。
 だが、男が見せた反応は劇的だった。一瞬にして表情が強張り、身体に緊張が走ったのが、端から見ても明らかだった。
 男は自分の名前を告げることを躊躇っていた様子だったが、それでも最終的に告げた理由は、名乗らなければならない必然性を感じたからだろうか。
 男は告げた。先ほどの口調とは打って変わった小さな声で。

「・・・・・・ゼストだ。ゼスト」

 ――そして現在にいたる。
 ヴァン・クロイツァーは、先日自分が倒した錬金獣の死体からレアメタルを取り出す作業に一日を費やすと、船へと戻る帰路についた。
 帰りはまたかつて砂防林だった森を抜けなければならなかったが、ゼストと名乗った男から渡された「鈴」のおかげで無事に通過することができた。男が言うには、この鈴はエルフールの技術を使って作成された代物であり、錬金獣だけでなく、異世界からきた凶獣にも有効なのだという。

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「・・・・・・つまり、俺に何が言いたいんだ?」

 熱弁に近い男の話だったが、残念なことに、無学であるヴァン・クロイツァーはほとんど理解できなかった。男の話があまりにも専門的すぎて、とっさにスピルヘータやジャン・ピエールがいたらと思ったほどだ。
 だが、ヴァン・クロイツァーの戸惑いも、男にとっては想定済みだったようである。男は手にしていたレアメタルを指で弾いた。レアメタルが、ヴァン・クロイツァーの手へと渡る。

「つまり、ソレを持って帰れということだ。そのレアメタルが、先ほど言った別の惑星から飛来する生命体に対抗する唯一の力となる。精錬方法も教えてやる。そしてそのレアメタルで武器を作り、立ち向かえ。それがおまえにしかできないことであり、人間が絶滅の道を免れる唯一の道だ」

 むろん、男にはその先にある無数の未来も見えている。ヴァン・クロイツァーがレアメタルを持ち帰ったことにより、人類は絶望のなかに一筋の希望を見い出すことができるだろう。だが、絶滅を免れたとして、その後はどうなるか。
新大陸の人間たちは旧大陸に利益と力を求め、こぞってこの旧大陸を目指すことになるだろう。その過程において、多大な犠牲を払い、さらなる破滅を招くことになるのだが、それよりも避けるべきは近未来における破滅を回避することであろう。さもなければ、人間は数年内に絶滅させられるからだ。

「・・・・・・」

 男から渡されたレアメタルを手の上に乗せながら、ヴァン・クロイツァーは沈黙した。正直、何をどうすれば良いかわからなかったが、自分が成すべきことだけはわかっていた。
 成果を持ち帰り、この探索を成功へと導く。

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「俺に未来を変えろ? 希望を持ち帰れ? 意味がわからない! 第一、俺にそんなことができるわけがないだろうが!」
「できる、できないの問題ではない。君がやらなければならないのだ。これは定められた運命ではない。他の誰か――そう、私を含めて、この世界にいる全ての人間の中で、君だけが未来を変えうる可能性を持っているからだ」

 そして男は、何か反論の言葉を口にしようとしたヴァン・クロイツァーの機先を制して、コートのポケットから虹色に光るコインのような金属を取り出した。

「・・・・・・なんだ、それは?」
「これはレアメタルという。先日、君が倒した錬金獣の体内で精製される老廃物の一種だ」
「錬金獣?」
「この廃墟を訪れた君を襲った怪物の群れがいたろう。あれが錬金獣だ。エルフールの技術によって造られた人造の生命体で、かつては人間によって使役されていたが、エルフール滅亡にともなって解き放たれた現在は凶獣と共に我が物顔でこの大陸を跋扈している。生殖機能はなく、体外に胞を形成し、分離・分裂することによって増殖していく。寿命が若い固体ほど体色が薄く、長い個体ほど黒く濃くなっていて、同種によって群体(コロニー)を形成しているのが特徴だ。究極の雑食で、無機物であれ、有機物であれ、摂食し、消化吸収し、自らの栄養に転化することができる」

 錬金獣は制作の過程で様々な動植物の因子が使われているため、極端な話、土からでも栄養を摂取することができる。

「錬金獣はたんぱく質やビタミン、炭化物やカルシム、脂質などの通常栄養素だけでなく、窒素、リン、珪素、炭素、砒素や青酸化合物にいたるまで、毒物や劇物、化合物ですら自らの栄養素と変えることができる。だが、ほんのわずかだが、極少数の稀少な金属物質は吸収できず、体内に留める性質を持っている。金、ダマスカス鋼、ミスリル、ヒヒイロカネ、ウーツ、アダマンタインなどだ。それら稀少金属は、錬金獣の体内に蓄積され、やがて大きな塊となっていく。それがこのレアメタルなのだ」

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 男は求められるがまま、その質問に答えた。

「より高位の次元に存在する未知だ。唯一にして全、全にして唯一――巨大で、矮小で、この世に存在する、無数のあらゆる世界に干渉する力を持っているだけでなく、生も、死も、過去にも、現在にも、そして未来にすら影響を与えることができる存在。でありながら、何もせず、ただ傍観しているだけの存在だ。私と同化しているコレは、〈神〉のほんの一部でしかないのだよ」

 そして男はさらに告げた。

「〈神〉と同化したことにより、かなり弱いが、私も〈神〉の力の末端を得た。それは未来を視て、変えることができる力だ。だから私はこうして君の元へとやってきたのだよ」
「な、なぜ?」
「君に未来を変えてもらいたいからだ」
「!?」

 ヴァン・クロイツァーは驚いた。もし、これがただの人間からの話であったなら、与太話として一笑に付し、嘲笑してそれで終わりだっただろう。だが、男の姿を見たいま、笑って終わりにすることはできそうになかった。続く男の言葉が、より一層、力強さを増していくように思われた。

「いま、君がいた世界に破滅が訪れようとしている。この世界に在る脅威ではなく、別の惑星より飛来する圧倒的力を持つ存在によってだ。その存在は、この世界にいる全ての人間を抹殺しようとするだろう。ゆえに、このままでは人間は成す術なく殺され、絶滅させられる運命にある。だから君が希望を持ち帰るのだ。世界を、そして人間を救うために。未来を変えるために」
「ち、ちょっと待ってくれ!」

 堪らず、ヴァン・クロイツァーは咆えた。

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プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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