確かに見張りの水兵の言う通り、東の空が真っ赤に染まっていたのである。それは彼が六〇年間生きてきてはじめて目にする光景であった。

「・・・・・・トリエステの方角だな。まさか、トリエステが燃えているのか?」
「ご冗談を。トリエステは大規模な都市ですよ。都市全体が燃えるなんて、まさか、そんな・・・・・・」

 水兵は笑ったが、やがて笑えなくなる。
 陽が東の果てから昇り始めた頃、陸地が見えたのだ。そして陸地を見たオストバール号の乗組員たちは、全員が一様に息を飲んだ。
 トリエステの港町が燃えていた。轟々と音をたてながら、赤い炎が天高く舞いあがり、港町が隅から隅まで一切の例外なく燃え盛っていたのである。それは容赦がない大火であり、業火であり、灼熱の地獄を彷彿とさせる光景であった。
 誰かが思わず呟いた。

「い、いったい・・・・・・なにが起こっているというのだ?」

 その問いかけに誰も答えなかった。誰も答える術を持っていなかったからである。
 そしてオストバール号の乗組員たちは見た。
 炎の中で蠢く無数の影たちを。
 それらはいったいなんなのか。正体はわからない。しかし、オストバール号の乗組員たちは知っていた。彼らはヴァン・クロイツァーから話を聞いていたからだ。

「・・・・・・ッ」

 ヴァン・クロイツァーの頭なの中で、ゼストが発した言葉が渦を巻いて巡っていた。

「君がいた世界に破滅が訪れようとしている。この世界に在る脅威ではなく、別の惑星より飛来する圧倒的力を持つ存在によってだ・・・・・・」

 アレがそうなのだ。
 炎の中で蠢く無数の影こそが、別の惑星からやってきたという存在なのだ。人類に破滅をもたらす存在なのだ。
 ・・・・・・後にソレは、古代神話にある天空より飛来する邪神の名を与えられ、次の名で呼ばれることになる。
 金属生命体・メガシオン。
 遥か昔に勃発した宇宙戦争の残骸が、悠久の時を経て、この惑星に破滅をもたらそうとしていた・・・・・・。

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 旧大陸を離れたオストバール号は、来た時と同じく七〇日以上の航海を経て、ようやくルドリア湾の穏やかな海域に戻ってくることができた。
 帰還の途中、オストバール号は来た時の倍近い数の激しい嵐に襲われ、途中、メインマストが折れるという事故に見舞われながらも、どうにか遭難や沈没といった最悪の事態は回避することができた。これは奇跡的な幸運だったのだろうか。それとも、必然だったのだろうか。
 だが、とにかくオストバール号は無事に戻ってくることができた。そして明日の明朝にはトリエステ港へと入れるだろう。

「・・・・・・」

 オストバール号で過ごす最後の夜、ヴァン・クロイツァーは自室にて横になり、ひとり考え事をしていた。ゼストと名乗ったあの男の言葉が、完全なる帰還を間近に控えて、より鮮明に彼の脳内で木霊していたからである。

「君がいた世界に破滅が訪れようとしている。この世界に在る脅威ではなく、別の惑星より飛来する圧倒的力を持つ存在によってだ・・・・・・」

 果たしてそれは本当のことなのだろうか。そして別の惑星から来るという存在とはなんなのだろうか。考えても、ヴァン・クロイツァーにはわからぬことであった。

「・・・・・・まぁ、いいさ。いずれにせよ明日になればわかるだろう」

 そう思い、ヴァン・クロイツァーは目を閉じた。彼はすぐに眠りにつき、そして朝、息を飲むことになる。
 同じ頃、船長のアル・ゴネは、見張りの水兵から異常の報告を受けていた。

「船長、ちょっと妙なんですよ」
「いったいどうしたのだ?」
「東の空が赤いんです。まだ夜明けまでは時間があるんですが、もの凄い真っ赤が色に染まっているんですよ」
「?」

 首を傾げながらも、アル・ゴネは甲板へと赴き、そして息を飲んだ。

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社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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