カイル・ルーの反応がやはりいまいちなのは、彼がチェザーレに対して不信感を抱いているだけでなく、さらに旧大陸という単語を聞いたからであろう。旧大陸に関して、カイル・ルーはチェザーレに関する噂同様、よくない噂を幾つも耳にしていた。
しかし、それらの不穏な噂を差し引いたとしても、この剣が秘めた威力と魅力はそれらに勝ると思われた。
カイル・ルーは剣を握る手に力を込めた。シュナイザーがこの剣を自分に託してくれた意味と真意を理解できぬほど愚鈍な彼ではない。視線を剣から主君に転じた時、その瞳には決意と覚悟の光がより一層輝いているようにみえた。
「必ずやメガシオンどもを駆逐してまいります」
「頼んだぞ、カイル」
ふたりは短く別れの言葉を交わし、カイル・ルーは本陣の天幕を去っていった。その後ろ姿を見送りながら、シュナイザーは雪を降らせ続ける灰色の天を仰いだ。すでに賽は投げられている。後戻りはできない。大勢の兵士たちが死ぬであろう戦いがついに始まるのだ。人類の救済という甘美な目標を掲げた、おそらくは純軍事的にはもっとも愚かで浅はかな作戦が開始されるのだ。そのことを知ってなお、この総攻撃を止めることができず、計画の総指揮を任された自分をシュナイザーは呪った。
だからこそ、シュナイザーは口にせずにはいられなかった。
「神よ・・・・・・どうか世界に未来を・・・・・・」
無神論者であるシュナイザーにとってこれほど無意味な言葉はなかったに違いない。いるはずのない相手に対して吐く言葉ほど、無力で無駄なものはこの世には存在しないからだ。
だが、シュナイザーの言葉の波動は、次元を隔てて存在しているそのモノに確かに伝わっていた。そのモノは、シュナイザーの言葉に刺激され、ほんの少しだけその巨大で矮小な身体を震わせた。その行動に気づいた者は、この世界にはただ一人だけ存在していたが、その「感情」が何によるものなのかを理解することはできなかった。
かくして、戦いが始まる。
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