競売場にて、ディルクは全裸にされて壇上に立たされた。健康であることと性別を買い主たちに確認させるためである。だが、当の本人からすれば羞恥の極みであり、たまったものではない。思春季に入りつつあった少年にとってこれほどの苦痛はなかった。
 嘲笑が興った。貧相な身体つきだと笑われる。親はいったいどういう育て方をしたんだ、と笑いながら言われた時、ディルクのなかで何かが弾けた。

「いまにみていろ・・・・・・」

 心の内でディルクは憎悪の言葉を吐いた。

「いまにみていろ・・・・・・必ず復讐してやる!」

 ディルクは決意をみなぎらせながら見た。
 幼い彼を競り落とそうとするのは豪奢な衣服と豪華な宝石類を身につけた脂肪の塊たちであった。貧困や苦労とは無縁の生活を送る人種たちだ。人間を家畜として使役し、それを気にすら止めない鬼畜たちの姿だ。そして、ディルクが憎悪し復讐する対象とした者たちであった。
 競りが開始され、ディルクは一般的な労働者の三ヶ月分の賃金と同額で落札された。落札したのは大規模な銀鉱山を所有する富豪であった。胸まで伸びた長い髭を生やし、でっぷりと太ったその男は、威圧的な口調でディルクに言った。

「いいか、おまえはこれから俺の所有物だ。俺の命令を良く聞き、死ぬまで働け。怠けたら容赦なく鞭を浴びせてやるからな。いいな」

 ディルクは答えた。

「はい」

 と。そう答える以外になかった。
 首に鉄製の枷をはめられ、鎖で引っぱられながら、ディルクは後ろを見た。弟のアイテルが競売にかけられている最中だった。それがディルクが見た弟の最後の姿であった。
 銀鉱山での労働は激務だった。まだ幼く、身体が小さかったディルクの役割は細く狭い坑道に入って鉱石をかき出す作業であった。

「もっと早く動け! 効率が落ちたらおまえのせいだぞ!」

 そう怒鳴られ、現場監督を務める男に鞭で打たれたことは一度や二度ではない。ディルクの背中には何本もの鞭の跡が刻まれた。激痛を全身に刻みながら、ディルクは機会をうかがった。この場から逃げ出し、自由を得るための機会を。憎悪の眼差しを向けながら。

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 ディルクにはふたりの姉と弟がいた。
 ふたりの姉はディルクが七歳と九歳の時、それぞれディルクたちが住む地方を治める総督の館へと召抱えられていった。
 姉たちを送りだす時、両親が泣いていたのをディルクは覚えている。そして馬車に乗せられた時の悲しげな姉たちの表情も。
 噂によると、ふたりの姉を召抱えた総督は人肉を食べる「狂人」だといわれていた。特に若い娘の肉が好物で、これまでに領内の若い娘たちが何百人と食べられているという。嘘か真か定かではなかったが、事実、ふたりの姉も帰ってこなかった。
 両親は生きていくために姉たちを売ったのだ。そうディルクは悟ったが、両親を責めることはできなかった。幼いながらも、自分たちが生きていくためだけで精一杯な状況を承知していたからである。
 ディルクが一〇歳になった時、両親が死んだ。当時、王国で流行していた悪性の風邪に感染した結果である。その風邪は十分な栄養と体力があれば死ぬことのない病気であったが、十分な栄養も取れず体力もなかった両親はあっけなく倒れ、この世を去った。この年、王国では全土で百万人を超す貧困者がこの病気にかかって病死している。だが、話題となったのは国王の四歳になる娘エリアスがこの病気にかかり、手厚い看護の末、奇跡的に一命を取りとめたという話であった。国王はそのことを大層喜び、王都にて盛大な祝賀会を三日三晩に渡って開催したという。むろん、社会の底辺で暮らす住人には関係のない話であったが。
 両親を失ったディルクと弟のアイテルに待っていた運命は過酷な現実であった。
 ディルクとアイテルは地主によって売られ、競売にかけられた。ナトゥース王国では人間を物のように売り買いすることを法律で禁じていない。

「残った借金はおまえたち自身を売って返せ。いいな」

 それが地主がふたりに向かって吐き棄てた言葉であった。
 最初に借りた金などとっくの昔に払い終わっている。しかし、高額な利子が膨らみに膨らんで貴族ですら払うに苦労する金額に達していたのだ。貸した金の利息を回収するため、地主からすれば当然の権利を行使しただけかもしれないが、売られる方からすればたまったものではなかった。

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 超常の力を誇り世界に君臨していた古代帝国エリューシオンの滅亡から千年。世界は幾つもの大戦と戦乱と動乱を経て現在を形作っていた。
 大陸の西方全域を支配する強大な国家・ナトゥース王国。建国当初、天変地異による王都壊滅という憂い目に遭いながらもその後は勢力拡大を続け、現在では大陸の五分の一を支配するにいたる。人口は一億五千万人、兵力総数は一二〇万人を超す。カドゥラ王国、ザイラム公国、フェムトラ都市国家群、シュターレン騎士団領国など複数の国家を属国や保護国として従えるこの超大国にディルクは生まれ落ちた。
 彼にとってこの国は、憎悪の対象でしかなかった。

 ディルクが生まれた家は毎日の食べ物にも事欠く貧家であった。ディルクの両親は畑で朝から晩まで必死になって働いたが、収穫した作物は全て地主に取られてしまい、ディルクらの口に入ることはなかった。自分の家の畑で取れた作物がなぜ全て持ってかれてしまうのか、幼いディルクには理解できなかった。
ディルクの家もかつては小さいながらも自前の畑を有し自立した農業を営んでいた。しかし何年か前に発生した冷害による飢饉の際、飢えを凌ぐために畑を担保として金銭を借りた結果、高額な利息を返済することができず、畑を奪われて農奴階級に転落したのである。当時、そのことを指して自業自得だと笑う者がいたが、後日、その者も同じく農奴階級に堕ちた。別に珍しいことではない。当時のナトゥース王国ではそれが当たり前だったからである。
 当時、ナトゥース王国は「三〇年戦争」の真っ最中であった。外国との戦争、国内での内戦、貴族たちによる私戦等、争いにつぐ争いによって国は荒れ、疲弊していた。そのため、社会の底辺に生息する人民への施しなど皆無だったのである。
 ディルクの家では食事はもっぱら屑芋や半ば腐った豆類、それに野山で採れた山菜や雑穀類がほとんどであった。それらすら食べられない時は水だけで過ごす日すらあった。
 空腹によるひもじさからディルクは幾度となく母親にすがったものである。

「お母さん、もっとたくさん食べたいよ・・・・・・」

 その言葉を聞くたびに母親は悲しい顔をして謝るのだった。

「ごめんね、ごめんね・・・・・・」

 と。
 母親の悲しい顔を見るのが辛くなり、ディルクはやがてすがらなくなった。

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どうも「ダメ人間」と申します。
社会の底辺に生息しており、憂さ晴らしと気分転換を兼ねて小説を綴っております。
ファンタジーや戦記関連の小説が好きで、どろどろとした重苦しい展開が好みな人間です。
気分が赴くまま、気ままに書いていますので、気がむいた時にでも見てやってください。
とりあえず、そんな感じでテキトーなご挨拶でした。
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プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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