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レミリア率いる討伐軍がファランクス市を離れて四日が経過した。一五万を超える大軍はカスティリア山脈に沿って北上を続け、山中での行軍を続けていた。山の中に入ってから復讐者たちによる奇襲や夜襲の頻度は皆無となったが、別の問題が発生しつつあった。冬の到来である。
一一月下旬になって、カスティリア山脈に雪が積もりはじめた。山頂は総白色で染まっており、大地を踏むと霜が砕ける音がする。兵士たちが吐く息は白く染まり、寒さのため動きも鈍い。一応、冬季戦用の装備と防寒対策のための準備は整っているが、このまま本格的な冬が到来すれば比較的温暖な気候で知られるブレスト地方も雪で埋もれてしまい、討伐軍は敵地で完全に孤立してしまうだろう。討伐軍はすでに地の利と人の和に見放されているが、どうやら天の理からも見放されつつあるようだ。

「一二月に入れば本格的な冬が到来する。そうなる前に、どうにか決着を着けなければ・・・・・・」

 焦燥感が募るが、だからと言ってどうにかなる問題ではない。
過程の話だが、もし無事にファランクス市を通過することができていたならば、すでにクローレンツの城影を視界に捉えていた頃である。いまさら言っても仕方がないかもしれないが、もし、レミリアとブラッドリーの順序が逆であったなら、こうはならなかったかもしれない。人生とは皮肉なものだ。
 険しい山道ゆえ、自らも馬を下り、手綱を引くレミリアに対して、そっと近づく影があった。実戦指揮官のナキウス・ベルカッツ将軍である。顔に憮然とした表情を浮かべながら、彼は言うべきことは言った。

「姫様、そろそろ日が暮れます。兵士たちは連日の行軍と寒さで疲れておりますゆえ、そろそろ野営の準備にとりかかるべきではないでしょうか」

 ロボス村での一件以降、レミリアとナキウスとの間には亀裂が生じていたが、それでもナキウスは軍の指揮官としては有能な男であり、純粋な軍事行動に関していえば同僚のライゼンデ・ファラよりも精通していた。あとは意見を受け入れる力量がレミリアにあるかだが、無用な心配だった。

「そうね、その通りだわ。全軍に行軍停止の伝達を。今日はこの辺りでの野営とするわ」

 実際の年齢はともかくとして、レミリアも精神的には成熟した大人だ。内心の感情が理性に勝るような愚行は犯さなかった。

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 だが、レミリアたちは失念していることがあった。
 ファランクス市はブレスト地方に所属する小都市であり、市長の任命権はブレスト地方総督にある。その総督のローシュはディルクの子飼いであるため全て彼の言いなりで、ラマールはディルクの息がかかった人物であった。つまり、ファランクス市は最初からレミリアの敵だったのだ。
 ファランクス市にはディルク兵団の偵察部隊が潜んでいた。彼らはレミリア率いる討伐軍の様子と動向、そして進路を探り、その情報はクム街道を使って後方に控えている本隊に届けられた。
 ディルクは討伐軍にカスティリア山脈を迂回された場合と、アルガリタの森を迂回された場合と、ファランクス市が強行突破された場合に備えてそれぞれ計画を練っていたのだが、情報を受け取って笑いが込み上げてきてしまった。なぜならば、討伐軍がとった進路はディルクがもっとも望んでいた進路だったからである。

「聞いたか、ジーク。奴ら、俺たちの裏をかいたつもりでもっとも愚かな進路をとったぞ」

 ディルクにつられるようにして、ジークも意地の悪い笑みを浮かべた。

「そう言ってやるなよ、ディルク。ここは彼らに感謝すべきだ。墓穴を掘ってくれてありがとう、とな」
「そうだな。その通りだ」

 辛辣な口調のふたりは、すでに同じような光景を脳裏に浮かべていた。奇襲を受けて狼狽する討伐軍、そして次々と討ち取られる指揮官たち。その光景が現実のものとなるのはそう遠くない未来のことである。

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 憤ったのはナキウスであった。彼は拳を握り占め、奥歯をギリギリと軋りながら怒りの声を吐き出した。それはラマール市長と、ひいてはファランクス市全体に対する憤怒の感情であった。

「おのれ、なんと無礼な奴らだ! 許せん! 姫様、そんな無礼な要求に従う必要はありませんぞ! かくなる上は全軍こぞって攻め入り、我が軍の力を思い知らせて力づくで通過してやりましょうぞ!」
「・・・・・・」

 レミリアはもはや返答する気にもなれない。そんなことをすれば更なる反感と憎悪を募らせるだけだということを、この男はまだわからないのだろうか。レミリアは内心で深いため息を吐きながら、卓上にブレスト地方の地図を広げた。

「要請に従いましょう。ファランクス市は通らない」
「姫様!」

 叫ぶナキウスを、レミリアはことさら無視してみせた。

「大軍でカスティリア山脈を越えることは不可能だから、アルガリタの森を迂回する形でクローレンツを目指しましょう。時間がかかるけど、仕方ないわ」

 なおもなにか言おうとするナキウスの機制を制して、彼よりも先に口を開いて発言したのはライゼンデ・ファラであった。

「レミリア様の意見に賛成いたします。ですが、もし、敵側がこの事態を予測していた場合、迂回先で奇襲攻撃を受ける可能性があります。であれば、ここはあえてカスティリア山脈を迂回する進路を選択してクローレンツを目指すべきです。アルガリタの森を迂回する進路よりもさらに時間がかかりましょうが、敵の裏をかくことができれば奇襲攻撃の心配もぐっと減る。いかがでしょうか」

 レミリアは頷いた。

「ライゼンデの提案を是とするわ。全軍に伝達、出発よ」
「はッ!」

 ライゼンデと、それにトゥナイゼルが応じ、ナキウスは苦虫を噛み潰した表情を浮かべたまま沈黙を保った。
 こうしてレミリア率いる討伐軍はカスティリア山脈を北上する形で迂回する進路を取り、クローレンツを目指すことになったのである。

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 事情を聞き、トゥナイゼルが駆けつけた時、惨劇はすでに終わっていた。村は血の海に沈み、切り刻まれた無残な死体が村中に散らばっていた。
 報告を受けたレミリアは激怒した。

「これではブラットリーと同じではないか!」

 という怒りの叫びが、彼女の心境を物語っている。
 レミリアは決断した。綱紀粛正のため、簡易の軍事裁判を開き、村人の虐殺に加担した兵士一〇五名を軍規違反で死刑にしたのである。これに対しナキウスは軍の士気に関わるとして異議を唱えたが、レミリアはその申し立てを却下した。

「事の重大さを鑑みれば当然の処置である。むしろ、この事態をうやむやにして放置すれば、あとあと我が軍の首を絞めることになる!」

 苛烈な物言いは一部兵士たちから反感を買ったが、それ以上に的確な事実を突いていた。だが、レミリアの懸念は、すでに現実のものになりつつあった。

 アルガルト地方よりブレスト地方への侵入を果たしたレミリア率いる討伐軍は、そのまま南進を続け、クム街道に沿ってクローレンツを目指している。この進路はクローレンツを目指す者にとっては一般的な行路であり、街道は石畳で舗装され、警備兵が定期的に巡回していることで安全性が高いことで知られている。街道には比較的規模が大きな町や市が点在しており、なかでも要衝に位置しているのがファランクス市であった。
 ファランクス市は険しい山々が連なるカスティリア山脈と深い森が広がるアルガリタの森のほぼ中央に位置しており、街道の交通を遮断するような形で鎮座している。クム街道に沿ってクローレンツを目指すのであれば必ず通過しなければならない場所だ。市の人口は一二万人、周囲を城壁に囲まれている城砦都市で、街道の治安維持を目的としておよそ五千人の兵が駐留している。
 一一月一五日、レミリア率いる討伐軍がファランクス市に到達した。レミリアは市に対して通行の許可を求めたが、市長のラマールから戻ってきた返答は要望に反して拒否の意思であった。
 ラマール市長の長ったらしい返答を要約すると次のような文章になる。

「討伐軍がこの地方でおこなっている蛮行の数々はすでに広く知られていることである。つい先日もロボス村で目を覆うような惨劇が展開されたばかりだ。次の標的がこの市ではないとは言い難い。で、ある以上、市長として市民の安全を護るため、討伐軍の通行は許可できない。もし、無理にでも通るというのであれば、勝てぬとわかっていても一戦を交える覚悟である」

 すでにファランクス市の城門が固く閉ざされており、城壁にも武装した兵士たちが配置されていると知って、レミリアは力なく肩を落とした。危惧していた不安の一端が現実化してしまったからだ。

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 レミリアにとって不幸なことは、ナキウスは戦場の指揮官として有能な男でも、物事を広い視野で捉えることができない人物であったことだ。彼はこの戦いで敵を撃破し、勝利することにのみ集中していた。ゆえに、戦いが終わった後も人の営みと国の歴史が続くことに思いいたらなかったのだ。
 もし、国がブレスト地方を徹底的に弾圧すれば、憎悪や怨恨が育まれ、いずれは国にとって致命的な事態を招くことになりかねない。それこそ、エリアス率いる反乱軍を討伐しても、第二、第三の反乱が起こるかもしれないのだ。すでにブラッドリーによって種は蒔かれている。もはや無かったことにはできない。ならばこそ、悪意の種子を発芽させず事前に摘むことこそが、王国にとって今後を考えたうえでの最良の策なのである。
 レミリアと同様の考えにいたった者は多い。ライザンデ・ファラ将軍がそうであり、トゥナイゼル騎士団長がそうだ。だが、悲しいことに、ナキウスのような人物たちこそが大多数であった。
 昼夜を問わず散発的に続く襲撃に討伐軍の一部が激発したのは一一月一三日の午後である。弓矢と投石による中距離からの襲撃を受けた討伐軍の一隊が、馬の腹を蹴り、猛然と襲撃者に迫ったのだ。
 慌てた襲撃者たちは身を翻して逃走し、近くの村に逃げ込んだ。ロボス村という。そこが惨劇の場となった。
 襲撃者たちも元々は一般市民であり、武器を持って武装はしていても、甲冑などは身につけていないため、端からでは見分けがつかない。舌打ちをしつつ、村から離れようとした時、村の中から弓矢による攻撃がなされたのだ。
 単発的攻撃だったが、これに指揮官の男がカッとなった。

「ええい、許せん! 全員、血祭りに上げてしまえ!」

 制御の効かなくなった軍隊は盗賊よりも質が悪い。殺意の咆哮をあげ、一〇〇騎を越す討伐軍兵士たちが村に突入した。
 村はたちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
 村の中には確かに討伐軍を攻撃した襲撃者たちが匿われていたが、無関係な者のほうが圧倒的に多かった。村人たちは刀剣で斬り殺され、槍で貫かれて絶命していった。抵抗はあったが、無抵抗の者の方が圧倒的に多かった。命乞いをする者も、助けを求める者も、復讐と血の臭いに酔った兵士たちの前には無力であった。
 戦争においてはしばしば一般の市民を巻き込んだ偶発的な殺戮が展開される。この事件はまさにその典型的な事例であったといえよう。

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 レミリアがブラッドリーの館から救出し、保護した奴隷の数は五〇〇人を越えた。その全員が、もはや普通の生活には戻れないほど、身体になんらかの後遺症を持つまで傷つけられていた。中には特殊な薬品に漬けられて頭部と内臓だけの状態で生かされていた者もおり、その者は本人の希望によって楽にされた。彼のように、救出後、自殺を望む者は一〇〇人以上に昇り、レミリアはその対応に苦慮せざるを得なかった。
 ブラッドリーの館からは他にも人骨で作成された家具や人間の表皮で装丁された書物、さらには眼球のアクセサリーや多数の人体標本などが押収され、地下室や中庭からはおびただしい数の人骨が回収された。いずれもブラッドリーが生前におこなっていた残虐行為を証明する品々である。彼のためにいったい何人の人間が傷つけられ、苦しめられたのか、もはや定かではない。
ブラッドリーは死んだ。それだけが救いだが、彼の生前のおこないによって苦しめられる者はまだまだいるのだ。ブラッドリーに対し、レミリアは改めて嫌悪の念を抱かずにはいられなかった。
 ライザンデ・ファラ将軍が天を仰ぐように呟いた。レミリアが覚えた苦々しい感情を、彼も共有したようである。

「襲撃者の正体が先の戦いの遺族とは・・・・・・。反乱軍もえげつない作戦をとってくれる。反撃しようがしまいが、これでは我々は悪のままだ」
「だが、反撃をしなければこちらの損害が増すばかりだ。それに奴らは反乱軍に手を貸す逆賊。ならば情けは無用! 姫様、奴らを血祭りに上げ、王国に逆らいし者がどうなるか見せつけてやりましょうぞ!」

 元々、度重なる襲撃に怒りを抱いていたナキウス・ベルカッツはレミリアに対して力強い声で迫った。
 レミリアは沈痛な面持ちで首を横に振った。

「それはダメ。そんなことをすれば、私たちはブラッドリーの二の舞をしてしまう。ブレスト地方に住む住民たちの人心はますます離れ、戦況の悪化を招くだけでなく、戦後の処理にも悪影響を及ぼすことになるわ」
「ではどうするのですか! まさか我々に黙ってやられろというのではありませんか? それでは兵士どもは納得しませんぞ!」
「身と安全を護るための反撃は許す。だけど、追撃はダメ。追撃をすれば、必ず憎悪が連鎖するから」
「・・・・・・」

 不服そうな表情を浮かべ、ナキウスは引き下がった。何か言いたげな表情を浮かべながらも押し黙ったのは、相手の立場と身分をおもんぱかってのことである。もし、レミリアの身分が彼よりも下であれば、ナキウスはたとえ女性であろうとも、鉄拳による制裁を加え、彼女を軍から追放していたであろう。

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 王国暦三二三年一一月一〇日、ブレスト地方で初雪が観測された。アルガルト地方との境界線上に位置するバズル山脈の山頂がうっすらと白色で覆われたのだ。この時期にしては珍しい光景である。
 同日、レミリア率いる一五万五千の討伐軍が、アルガルト地方よりブレスト地方への侵入を果たした。奇襲攻撃を想定し、臨戦態勢を取ったうえでの侵攻だったが、反乱軍からの攻撃はなかった。
その日は。
 散発的な攻撃が開始されたのは翌日からである。クローレンツを目指して進軍する討伐軍を、数十人から百人規模の小集団が攻撃を仕掛けてきたのだ。彼らは茂みに潜み矢を放ち逃げ、崖から石を投下しては逃走した。被害は軽微だったが、一一月一二日の夜襲によって運んでいた糧食の一部が燃やされた。度重なる襲撃に業を煮やしたナキウス・ベルカッツ将軍が追跡隊を組織してその一味を捕らえ、尋問したところ、討伐軍にとっては苦い事実が判明したのである。

「俺たちはおまえたちの仲間によって家族を奪われた者だ! 妻は犯されて殺され、子どもたちは全身の皮を剥がされて殺された! これは復讐だ! おまえたちを俺たちは絶対に許さないぞ!」

 ディルクは先の戦役で家族を殺された者たちを集め、尖兵として組織し、奇襲や夜襲を主とした攻撃を展開させていた。軍事的な勝利を期待せず、敵軍に人的・物的・精神的な消耗を強いるためである。尖兵の中には成人した男性だけでなく、女性や老人、さらにはまだ年端もまもない子どもの姿すらあった。みな、ブラッドリー率いる討伐軍に家族を奪われた者たちであり、復讐の一心で攻撃に参加していたのだ。
 事実を知ってレミリアは苦虫を噛み潰さずにはいられなかった。

「ブラッドリー・・・・・・死してなお、他者を苦しめるか」

 討伐軍を率いて王都を出立する前、レミリアはトゥナイゼル騎士団を率いてブラッドリーの館を襲撃した。表向きの罪状は王命違反であるが、真の目的は屋敷に捕らえられていた奴隷たちの解放にあった。ブラッドリーは生前、四肢を切断し、両眼を抉り、喉を薬品で潰して喋れなくした少女たちを一〇〇人以上、館で飼っていた。他にも様々な理由で多くの者たちが捕らえられており、日々、凄惨な虐待がくわえられていると噂されていた。それらは全て事実だった。

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ジーク指揮の下、各地に潜む工作員たちを通じて、ブラッドリー率いる討伐軍の悪逆非道なおこないがすでにナトゥース全土に伝わっている。誇張せずとも事実を流布しただけで人心は動揺し、今後の戦況如何によっては、反乱軍側に寝返る者も増えてくるに違いない。それは一般の市民のみならず、貴族や王族などにも伝播していくはずだ。
 これだけでも十分、王国に亀裂を生じさせるに足るが、それだけではない。
属国や隣国に派遣した密使を通じての作戦も決行の予定である。ナトゥースの属国であるカドゥラ王国やザイラム公国では、近年、ナトゥースからの自治独立を目指した動きが活発化している。隣国のグロネリア王国も、先年の外交的敗北の雪辱を晴らすべく、報復の機会を虎視眈々とうかがっている最中だ。これらの国を通じてナトゥースを外から攻撃させ、内部から侵蝕の度合いを深めていけば、ナトゥース王国など蚕食された桑の葉も同然である。崩壊は必至だ。
 ディルクがニヤリと笑った。

「そうか。それは何よりだ」

 もう次の戦いに向けた準備は完了している。先の戦いで受けた損害は限りなくゼロに等しく、勝利の余韻によって兵たちの士気は高い。先の戦いの影響によってブレスト地方の住民たちの支持も完全に得られた。ブラッドリーが所持していたカードの回収も済み、保有するカードの質と量は飛躍的に強化されている。計画はかぎりなく順調であった。
 ディルクがソファーから立ち上がり、窓から外を見た。空には雲一つなく、世界が地平線の彼方まで広がっている。目に見える全ての領域がナトゥース王国のものだ。

「次の戦いに勝利した後、侵略の矛先をブレスト地方領外へと進める。手始めにアルガルト地方を、次にレガンタ地方を、その後は順次、近隣の領域を。そしていずれは、この国の全てを我が勢力で覆いつくしてやる」

 ナトゥースの征服が完了した後は大掃除の始まりだ。王族を殺し、貴族を殺し、弱者を搾取する全ての圧制者たちを根絶やしにして、この国を破壊し尽くしてやる。その時こそ、ディルクの野望が成就する時なのだ。

「ナトゥース王国に破壊と滅亡を」

 幼き頃、全てを奪われた少年は、いまここに全てを奪う復讐者として立っている。彼は悪であろうか。それとも、彼をそう駆り立てたこの国こそが悪であろうか。歴史はまだ、黙したまま語ろうとしない。
 数日後、レミリア率いる討伐軍がブレスト地方への侵入を開始した。
 第二次ブレスト戦役のこれが始まりである。

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 討伐軍第二陣出陣の一報は、すぐさま王都に潜む密偵から連絡用の鳩によってブレスト地方のクローレンツにもたらされた。
 驚きはない。予想通りだからだ。
 連絡を受けたジークがディルクのもとへ赴き説明をおこなう。ソファーに身を沈め、傍らにエリアスをはべらせながら、ディルクはジークの言葉に耳を傾けた。

「王都からの連絡によると、討伐軍の第二陣が王都を出立したようだ。兵力総数は一五万五千。騎兵六万、歩兵八万、それにトゥナイゼル騎士団まで加わっている。ブラッドリーの時よりも多いぞ、ディルク」
「とるに足らん問題だ。いくさは大軍を編成すれば勝てるわけではない。勝てるかどうかは指揮官の実力と力量による。で、討伐軍第二陣の指揮官は誰だ?」
「事前の予想通り、討伐軍第二陣の指揮官を務めるのはレミリア王女のようだ。アルバトロスとブラッドリー亡き今、まぁ、当然といえば当然だろう。しかし、彼女は実戦経験がないからな。補佐役としてナキウス・ベルカッツ将軍、ライザンデ・ファラ将軍、そしてトゥナイゼル・セカンド騎士団長が就いているそうだ。実質、こいつらが実戦指揮官といえるだろう」
「だろうな。実績を鑑みれば、まず間違いない」

 三〇年戦争の最中、クナルスの戦いで活躍したナキウス・ベルカッツは猛将として名高く、ザイラムとの講和を成立させたことで知られるライゼンデ・ファラは思慮深い智将として知られている。一介の傭兵から実力によって取り立てられたトゥナイゼル・セカンドは、三〇年戦争末期にレイモンドに取り立てられ、騎士の称号と正規の騎士団の承認を得た。そのため国王への忠義が厚く、文武両道に長けた将であり、これまでの戦績を考慮すればディルクに匹敵する実力を持っているかもしれない人物だ。いずれも二流とは言い難い人材ばかりである。
 だが、ディルクもジークも恐れてはいない。決戦に臨む前に、有能な指揮官たちにはこの世から退出してもらえば良いだけなのだから。頼れる指揮官を失った大軍など、烏合の衆も同然である。

「それよりも、その後のことに関しての状況はどうなんだ?」
「むろん、順調だ。各地に蒔いた種は順調に育ちつつある。次の戦いが終わる頃には美味しく実っていることだろう」

 計画は進行中だ。

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「本当に・・・・・・申し訳ありません・・・・・・」

 低頭し、謝罪の言葉を口にするグラウニーに対し、レミリアも、そしてレイモンド王も沈痛な表情を浮かべて沈黙したままだ。
 今回の敗北によってもたらされた衝撃は大きい。軍事的な敗北だけでなく、人道的な観点からいっても大敗北だ。
 ブラッドリーの蛮行によってブレスト地方の人心は完全に王国側から離反したとみていいだろう。噂が伝播すれば、他の各地方にも動揺が走り、エリアスが蒔いた反意が増殖するかもしれぬ。そうなればナトゥースの属国や同盟国、あるいは敵意を抱く隣国が再び不穏な動きを見せ始めるかもしれない。そうなれば、いままで築き上げてきた平和と平穏が一瞬にして水の泡だ。

「全ては余の責任だな・・・・・・」

 深刻なため息と共に、レイモンド王は呟いた。こうなってくると不手際だけが目についてくる。配下の騎士団を動かしての王位の簒奪、エリアスの幽閉、そしてブラッドリーの登用などだ。戴冠以降敷いてきた無血の善政も、悲しいことにそれら汚点の前にはかすんでしまう。

「・・・・・・どうしたものか」
「弱気になっていてもはじまりません。この上はわたしが軍を率いてブレスト地方に向かいます。もうこれ以上、事態を悪化させないためにも」

 レイモンドは再び大きくため息を吐いた。

「そうだな。もう、それしか方法はない」

 カードを使う者に対抗するためには、やはりカードが扱える者でなくてはならない。そしてその者は、もはやレミリアにおいて他にいないのである。

「だが、できればカードの力は使ってほしくない。カードの力は人智を超えた力だ。古の超常の帝国エリューシオンですらその力を制御できず滅亡した。ナトゥース建国の祖アルジャーノ一世もカードが原因で王都を一度、滅ぼしている。だからこそ、くれぐれもカードの力を使わぬよう努力してくれ。いいな」
「わかりました。父上のご期待に沿えるよう、努力いたします!」

 力強い言葉を述べ、レミリアは身を翻した。
 ・・・・・・数日後、討伐軍第二陣がブレスト地方を目指し、王都を出立した。王国暦三二三年一〇月二五日のことである。

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