以来、アルフレットは常に奴隷について考えてきた。同じ人間であるにも関わらず、なぜ彼らはこんなにも過酷な目に遭わなければいけないのか。ただ魔法が使えないというだけで、なぜあんなにも残虐な扱いを受けているのか。疑問は成長と同時に膨らんでいき、気がつけば彼は奴隷たちを想って動いていた。魔法使いも奴隷も等しく平等な社会――それがアルフレットの望みであった。
だが、アルフレットの想いは無残にも打ち砕かれることとなる。
 ディジレ河の治水対策工事は順調に進んでおり、日夜三交代で休まず工事がおこなわれた結果、当初の予定よりやや遅れたものの、治水工事は八割方完了していた。
 季節は夏の終わり。そろそろ嵐が到来する時期である。アルフレットはディジレ河の支流各地に三〇〇人の魔法使いを配置し、嵐の到来と増水による氾濫に備えた。
 ところがである。その三〇〇人の魔法使いたちが一夜にして皆殺しされたのだ。しかも運の悪いことに直後に巨大な嵐が到来した。さらに完成していたダムや貯水地が何者かによってことごとく破壊されてしまった。その結果、ディジレ河はかつてないほど氾濫し、水が溢れ、岩石や流木をともなった濁流が下流域で最後の仕上げをおこなっていた一〇〇〇万人を超す工夫たちをことごとく飲み込んでしまったのである。
治水対策工事を一夜にして無に帰してしまった。
 この裏では歴史に残されぬ陰謀が動いていた。
 三〇〇人の魔法使いたちを殺害したのはゼルキア・ザムエルの命令を受けた王立魔法騎士団の魔法騎士たちであり、嵐を呼びさらに強大化させたのはグランツェル・ロスキュリアの下令を受けた王立魔法軍団の魔法使いたちであった。ダムや貯水池の破壊も彼らの仕業であった。ディジレ河の治水対策を失敗させ、アルフレットを破滅においやることが目的だったのである。
 ゼルキアとグランツェルの目論見は完全に成功した。ディジレ河の治水対策工事の失敗によって、アルフレットは、そしてフォンライト家は、回復不可能なほどの損失を被ったからである。
フォンライト家は破産した。

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計画では、ディジレ河全域の約七〇ヶ所で同時に工事を開始し、支流には四〇ヶ所の貯水地と一〇ヶ所のダムを設け、ディジレ河本流では高さ一五メートルの堤防を三五〇キロメートルに渡って建設する予定であった。
 ディジレ河の治水対策工事が完了すれば、流域の広大な土地が開発できる。事前の調査によると、未開発地域をすべて農地へと転化した場合、一五〇〇万人分の農作物が確保できるそうだ。金額に換算して毎年の収入は四二〇〇億セトナ。見込める利益率は三割以上。そのうち二割は国に還元されるが、残りの八割はフォンライト家の取り分となるのである。

「この事業が成功すればフォンライト家の力はさらに増す。そうなればより多くの奴隷たちが救えるぞ」

 アルフレットの行動の原点には、彼の幼少期の体験が大きく影響している。アルフレットがまだ文字も書けないほど幼い頃、彼にはフォンライト家の屋敷で働く同じ年頃の秘密の友達がいた。なぜ秘密だったかというと、その友達と遊ぶと両親に怒られ、その友達の親たちからは謝られたからだ。だからアルフレットとその友達は親たちに隠れてこっそりと遊んだ。楽しい日々であった。
 だがある日、その楽しい日々が一転する。友達が屋敷から消えたのだ。両親に尋ねても教えてくれなかったので、アルフレットは友達の行方を友達の親に聞いてみた。友達の親は頑なに口を閉ざしていたが、やがてアルフレットのお願いに根負けして教えてくれた。友達の親はいまにも崩れそうな悲しい表情を浮かべながら、息子が売られたことを教えてくれた。
 友達は奴隷だったのだ。
 アルフレットは執事のひとりにお願いして友達の行方を捜してもらった。そして数日後、友達の行方が判明した。彼は人体実験の材料として使用され、すでに死んでいた。執事の制止を振り切ってアルフレットが目にした友達の最後の姿は、全身が緑色に変色し、身体が倍以上に膨れあがった無残なものであった。新開発された魔力増幅剤の人体への影響を確かめるべく新薬を投与された結果だった。
 友達は奴隷だったからこそ、悲惨な最期を迎えたのだ。

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これまで奴隷に肩入れした者はいずれも不幸な末路を辿っている。論文を発表したフィリップス・ヨーゼフはその後、魔法学会を追放されて病死した。奴隷たちに対する慈善活動をおこなっていたマリア・テレサは二五歳の若さで毒殺されている。作家のケスラ・ロスキュリアスは何者かに暗殺され、彼の著書「奴隷」は王国から発禁処分を受けた。アルフレット・フォンライトもまた、彼らと末路を共にするのだろうか。
事件が起こった。
 王国暦九九六年九月一日のことだ。
 その前の年よりフォンライト家は総力を挙げて大規模な事業に着手していた。ディジレ河の治水対策工事である。
 ディジレ河は王国でも三指に入る大河で、流入する支流の数は二〇〇を超える。支流も含めた河川の総延長距離は一万九〇〇〇キロメートルにもおよび、毎年、多数の嵐が到来する夏の終わりから秋にかけて大規模な氾濫をおこすことで知られていた。そのため、下流域の広大な土地が未開発地域として残っており、ディジレ河の治水対策はその土地を開発するための工事であった。
 魔法によって自然の力を制御することができるようになったとはいえ、常に天候を制御することは不可能である。優秀な魔法使いであればひとりでも嵐を鎮めることはできるが、それでも莫大な魔力を消費するし、場合によっては魔力を使いすぎて衰弱死する場合もある。ましてや力が弱い一般の魔法使いでは千人集まっても嵐を制御できない場合がほとんどである。魔法とて万能ではないのだ。
 ディジレ河の治水対策はこれまでに幾度もおこなわれていたが、そのつど失敗に終わっている。ディジレ河は毎年必ず氾濫するため、工期の途中で河が溢れ、工事が失敗することが常であった。
 そこでアルフレットは、工事を短期間で完了させるべく、五兆セトナに昇る資金を投じ、一二〇〇万人を超す労働者と奴隷を集め、二〇〇〇億トンに達する石材や木材を確保し、さらに途中での大雨や嵐の到来に備え、水属性の魔法を得意とする三〇〇人の魔法使いを雇った。

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 貴族たちは陰でアルフレットの悪口を言いあった。アルフレットはフォンライト家の当主であったため、面と向かって嫌味を言う勇気が彼らにはなかったからだ。

「のう、知っておるか? アルフレット殿が奴隷たちを優遇しておるそうな」
「知っておる、知っておる。なんでも随分と甘やかしているそうじゃないか」
「あれは阿呆な行動だ。奴隷を甘やかせば奴らつけあがるだけ。すぐに怠けて働かなくなるぞ」
「まったく、アスフォール三柱が一家族であるフォンライト家の当主だというのに、物事の道理もわきまえぬお人じゃ。王国の国是に反するとは、フォンライト家の威光も地に落ちたようじゃな」
「だが、安穏とはしておれんぞ。奴の愚行のせいで最近、奴隷たちが騒がしい。自分たちもフォンライト家の奴隷のように待遇しろとうるさいのだ」
「騒ぐ奴隷は全員、口を針と糸で縫いつけてしまえ。そうすれば静かになるだろう」
「それはもっともだ。しかし、アルフレット殿の愚行、このまま放置はできませんな」
「その点はご安心を。どうやら最近、ゼルキア・ザムエル殿とグランツェル・ロスキュリアス殿が密談をされたそうだ。いずれアルフレット殿に対する懲罰が下るだろうな、きっと」
「それは吉報だ。楽しみだ。ハハハ」
「ハハハハハハッ!」

 貴族たちの陰口ででてきた人物――ゼルキア・ザムエルとグランツェル・ロスキュリアスはアルフレットと肩を並べるザムエル家とロスキュリアス家の当主である。それぞれが軍務大臣と魔法大臣という肩書きを有しており、両家ともフォンライト家と同程度の力を持つ。力の巨大さゆえ、普段は互いに不干渉を貫いている三家族であったが、今回ばかりは違っていた。ゼルキアもグランツェルも、アルフレットの愚行に対しては他の貴族たちと同じ感想を有していたからである。

「アルフレットの愚行、もはや放置できぬ」

 密談を重ねた両名のそれが結論であった。

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 フォンライト家は金融に関する知識が豊富な一族で、大陸全土に支社を持つフォンライト銀行の経営をはじめ、希少金属が産出される鉱山や大規模農場の経営、土地開発や建築物の売買、木材や石材の取引、毛皮や象牙や宝石などの独占販売などによって莫大な財を築きあげてきた。また、広大な荘園や領地も保有しており、貴金属類や宝石細工、絵画、彫刻、その他美術品など数えきれぬほどの財を持つ。先祖伝来のその総資産額は合計で一〇兆二〇〇〇億セトナに達したというから、フォンライト家がいかに巨大な財力を誇っていたかは想像に難しくないであろう。その資産をアルフレット・フォンライトは惜しげもなく奴隷たちのためにつぎ込んだのだ。
 まずアルフレットは、市場で、競売で、露店で、売られている奴隷たちを買い漁った。その数は合計で数十万人を超えたというから凄まじい。そして彼は奴隷たちを自分が経営する鉱山や農場で働かせた。
 当時(というより昔から)の奴隷たちの生活環境は悲惨の一語に尽きる。一日一食の粗末な食事、一六時間の労働、休日や休息時間は皆無で、子供でも大人と同じように働かされていた。そして少しでも失敗やヘマをすれば容赦なく鞭が浴びせられ、木の棒で殴られ、あるいは爪を剥がされて、最終的には殺される場合もあった。ある統計によると奴隷たちの平均寿命は男女あわせて約三八年ということだが、これは極めて妥当な数字といえよう。
 それに対してアルフレットが奴隷たちに与えた待遇は次の通りである。
一日三食の食事、八時間の労働、週休二日、傷病による休息の確保、一二歳未満の子供の労働の禁止、拷問や私刑の禁止――通称「アルフレット六か条」という基準が奴隷たちのために設けられた。これはアスフォール人の平均的な労働環境と同じである。つまり、アルフレットは奴隷たちを人間として扱おうとしたのだ。
 アルフレットが設けた基準に対し、奴隷を所有する多くの魔法使いたちは反感を抱いた。奴隷を人間扱いすることはアスフォール王国の国是に反する行為であったし、なにより自分たちが所有する奴隷が、アルフレットが所有する奴隷と自分たちを比較して不平不満を高めることを警戒したのだ。

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魔法使いたちの富貴な生活は、結局のところ、奴隷たちの過酷な労働によって支えられているのだ。魔法使いたちが裕福な暮らしを送る一方で、奴隷たちは常に過労死か餓死か衰弱死といった死と隣合わせの生活を送っているのである。魔法使いの質が低下する陰で、奴隷たちの怒りは増すばかりだ。かつてあった〈トーランの乱〉のように、いつか奴隷たちの不平不満が爆発し、怒りと憎しみが濁流となって自分たちを飲み込むかもしれない。そう考えた者も魔法使いのなかにはいたが、だからといって彼らは動かなかった。面倒だったからだ。将来に対する不安を覚えても、目の前に垂れ下がっている楽や欲に負け、彼らは安寧とした生活に浸り続けた。きっと自分ではない誰かが動いてくれるだろう、そう思って。
確かに、動く者はいた。ただし、彼らは魔法使いの将来を不安視する者たちではなく、純粋に奴隷たちの生活環境に胸を痛め、良心の呵責に苛まれた者たちであった。
 たとえば、魔学博士のフリップス・ヨーゼフは「奴隷たちの労働環境改善にともなう生産能力の向上」という論文を書き上げ、奴隷たちの労働時間短縮と鞭打ちや殴打による刑罰の禁止を求めた。
 大貴族の令嬢としてこの世に生を受けた光の魔法使いマリア・テレサは、一六歳の時、数多くあった縁談をすべて断り、さらには美貌の魔法騎士として知られていたルセト・ザムエルの求婚すら断って、奴隷たちの看護と介護に生涯を捧げた。
 ロスキュリアス家出身の作家、ケスラ・ロスキュリアスは奴隷たちの悲惨な状況を取材し、一冊の本にまとめて出版した。題名は「奴隷」という。ケスラの綿密な取材と彼が知る秘事を土台として書かれたその本には、奴隷たちの悲惨な歴史と悲惨な生活が克明に描かれており、世間に強い衝撃を与えた。
 なかでももっとも精力的に活動した人物は、「アスフォール三柱」が一家族・フォンライト家の第四二代当主であったアルフレット・フォンライトであろう。彼は莫大な資産を使って物理的に奴隷たちの生活を改善しようとした。

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 王都には内側にもうひとつ城壁があり、その内側には別世界が広がっている。
距離を保って建設された豪奢な邸宅が建ち並び、大理石の道が敷かれ、珍しい植物が観賞用の街路樹として植えられており、専用の市場には一般市民では手が届かないような高価な食品や品物が豊富に揃えられていた。毎日、入念に整備や清掃がおこなわれているため、街は常に美しい景観が保たれている。この街の名前はフォレイトという。ここは第一階級の特権者たちが暮らす街であり、王国の約八割の魔法使いたちがここに住んでいるか、あるいは居を構えている。
フォレイト街の人口は老若男女を合わせて四〇万八千人ほどだが、占める面積の割合は王都の四分の一を超える。魔法使いがいかに優遇されているか、それだけでも十分理解できる数値だが、魔法使いたちには他にも様々な特権が用意されている。税金の免除、高額な年金の支給、医療費の無料化、奴隷の無償提供、一般市民への犯罪に対する不逮捕特権などなど、ただ魔法が使えるというだけで、彼らは優雅で贅沢な暮らしが約束されているのだ。
 魔法使いにもピンからキリまでいる。優秀な魔法使いであればそれこそ天変地異をおこすことができるが、低位の魔法使いでは焚き火をおこすことがやっとだ。しかも後者の魔法使いこそが魔法使い全体の大部分を占めているのである。下手をすれば九割を超えているかもしれない。にも関わらず、彼らは魔法が使えるというだけで一生、富貴な生活を営む権利を確約されていた。
 歴史に名を残さぬとある魔法使いの生涯生活は、次の一文で片付くほど簡潔なものだったそうだ。

「朝起きて高級酒を嗜み、昼は美食を貪り、夜は美しい奴隷を抱いて寝る」

 このような生活を大半の魔法使いたちが送っていたのだ。彼らはそれを当然の権利だと認識していた。
 一方で、このような堕落の一途を辿る魔法使いの現状に危機感を覚える者も少なからずいた。

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 デル・モアによる世界征服が完了後、アスフォール王国は大陸に存在する唯一の国家となった。人口は七億二〇〇〇万人、うち魔法使いの数は約五〇万人、奴隷の数は三億人以上である。
 王国の領域は、未開発の辺境地域を除き、東西一万四五〇〇キロメートル、南北一万八〇〇キロメートルにも及ぶ。あまりにも広大であるため、国土は三六の地域に分割されており、国王が直轄する「中央」を除くその他の地域には、それぞれ国王の任命を受けた総督が派遣されて各地を治めている。総督の任期は原則としては五年だが、「アスフォール三柱」が三家族、ザムエル家、ロスキュリアス家、フォンライト家が治めるそれぞれの地方――ザムエル地方、ロスキュリアス地方、フォンライト地方の総督は例外的に永続継承権が認められていた。これは開闢の祖デル・モアより与えられた特権の一部であった。
 アスフォール王国の王都は大陸の「中央」にある。名はルクナバータといって、見晴らしのよい平原にあり、広さは東西二五キロメートル、南北二二キロメートルにも及ぶ。王国暦二五年より本格的な建設が開始され、およそ一五〇年の年月をかけて完成にいたった。周囲は厚く高い城壁で囲まれており、東西南北それぞれの城門には大口径魔導砲一〇門と、城壁の各所には移動式の通常型魔導砲一〇〇〇門が設置され、常時一万人の兵が壁面の修復や修繕、そして警備を目的として配置されている。城壁の内側には一〇〇万を越える建築物が林立しており、公称で二八〇万人もの市民が生活を営んでいる。旅人や行商人、さらには人として認識されない奴隷の数も考慮すれば、王都の人口はその倍以上になるかもしれない。
王都からは東西南北それぞれの方角に向かって街道が網目のように延びており、それらの道を使って毎日のように国中の産物がルクナバータへと集まってくる。北のシルフィード産の白金や岩塩、東のカルナック産の馬や絹、南のルーダン産の果物、西のアリーナ産の乳製品や観賞用植物など、王都では手に入らない物が存在しない。また、王都には無数の奴隷市場があり、そこでは日夜、盛んに奴隷の売買がおこなわれていた。奴隷は穀物に次いで流通量の多い商品であり、王都ルクナバータでは一般市民でも奴隷を所有している者が多くいる。そのためゴミ捨て場には、一般のゴミに混じって殺されたり死んだりした奴隷が捨てられていたりするが、そんな光景はここでは日常茶飯事であるため誰も気に止めたりはしない。それが王都では普通の価値観であった。

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 リュードは閉じていた目をゆっくりと開けた。そろそろ自分の値段が決定する気配がしたからだ。

「一〇万五八〇〇! 一〇万五八〇〇! 他にはないか!」

 進行役が怒鳴っているが、他に手を挙げる者はいない。
 手を挙げている者をリュードは見た。豪奢な衣類と宝石を身につけた、でっぷりとした脂肪の塊が手を挙げていた。目をギラギラと輝かせながら。
 リュードはもう一度、静かに目を瞑った。
 その時だった。

「一〇〇万」

 聞き違いか、と思うような単位が鼓膜を突いた。
 驚きとどよめきが会場を支配し、リュードは思わず目を見開き、声の主を見た。
 豪奢な衣類を身にまとった壮年の貴族が挙手していた。何人もの従者を従えており、ひと目で彼がただ者でないことがわかる。先ほどまで姿がなかったのは、今しがた会場に到着したからだろう。

「ひ、一〇〇万・・・・・・ほ、他にはいないか?」

 今度は誰も手を挙げなかった。
 決定した。高額な値をつけた壮年の貴族がリュードの新たなる主人となったのだった。
 その後、壮年の貴族は出品される奴隷を次々と落札していき、結局、残りの八十人近い奴隷をすべて落札してしまった。なにが目的か、その時はまだわからなかった。
 貴族の名前はアルフレット・フォンライト。「アスフォール三柱」が一家族、フォンライト家第四二代当主であった。

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 七万五千人の奴隷たちは交代で殺し、そして殺されていった。仲間を殺した者が次に殺されるのだ。自分が仲間に与えている苦痛を、次は自分で味わうことになるわけだ。恐怖で発狂する者が千人以上いたというから、この処刑の凄まじさがわかるであろう。七万五千人の奴隷たちは一ヶ月かかって全員が死に絶え、最後に残ったトーランは半ば発狂し、糞尿を垂れ流しながら死刑を執行されたという。薄笑いを浮かべながらノコギリを引き、彼の命を絶ったのはアグネス・ロスキュリアスであった。
〈トーランの乱〉の以降もアスフォールではしばしば奴隷たちによる反乱が起こったが、そのつど鎮圧され、その後二世紀はアスフォール王国に変化はなかった。
 奇妙な事件が生じたのは王国暦七〇〇年のことである。アスフォール南部に位置するピレーネ山脈のふもとのカザフ収容所で一万八千人の奴隷たちが一斉に姿を消すという事件が起こったのだ。二〇〇名の看守が全員殺害され、収容所の壁には彼らの血を使って文字が書かれてあった。

「いまにみていろ」

 それが奴隷たちが残した書置きであった。
 すぐに調査がおこなわれ、一万八千人の奴隷たちの捜索がはじまった。そして判明したことは、彼らがピレーネ山脈を目指したということであり、大半が力尽きて命を落としたということであった。ピレーネ山脈の中腹でおびただしい数の死体が発見されたことが揺るぎない証拠とされた。
ピレーネ山脈は標高が九〇〇〇メートルから一万一〇〇〇メートルという険しい山々が連なってできており、山脈の長さは北東から南西まで九五〇キロメートルにもおよぶ。標高八〇〇〇メートルより上は万年雪が層を厚くしており、人の行く手を阻む天然の要害となっているため、人が登るには適さない山だ。奴隷たちがなぜ、このピレーネ山脈を登ろうとしたかは不明のままだったが、調査は彼ら全員の死亡という結論で決着をみた。事実、彼らはその後、二度と歴史に姿を現さなかったのだから。
 アスフォールの歴史はその後も続き、現在、王国暦は九九三年を迎え、国王は四五代まで代を重ねている。魔法使いたちはいまだ栄華を誇っており、彼らの春は続いたままだ。逆に奴隷たちの極寒は厳しさを増すばかりだった。

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プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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