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 新皇帝に就任したシュトライザーはまことに逞しい男であった。背は高く、腕は太く、胸も厚く、足も太い。心身を極限まで鍛えあげた、まさに武人の見本ともいうべき人物であるが、幼少時の彼はいまと比較できぬほど薄弱な存在であった。
 皇太子時代、シュトライザーは「白い皇子」の異名で知られていた。生まれつき病弱であった彼の髪には色素がなく、肌の色も極端に白かったからだ。先天性の異常を抱えており、身体の骨と筋肉が極端に弱く、五歳まで這うことはおろか、満足に寝返りもうてぬ有様であった。生まれた時、彼は医師から一〇歳までは生きられぬだろうと宣告された身であったが、その宣告年を二〇年も超えた現在でも生を保ち、むしろより一層、命を輝かせながら生命のカレンダーを消費していた。皇太子時代、彼は帝国宰相と帝国軍元帥の地位を兼務しており、父帝をよく補佐し、それぞれの方面で確かなる実績を上げた。ゆえに、彼が皇位に就くことに対し、異論を唱える者の存在は皆無であった。
 出陣式当日、病弱さなど微塵も感じさせないほどの成長を遂げた新皇帝が、まことに堂々とした姿で壇上に立った。後ろにはレーゲンドルフ・シュタインホフマン参謀総長、ギルベルト・バイルシュミット上級大将、エルリック・ナイアス上級大将が控えている。広場に整列した万を越す将兵たちが歓呼でもってシュトライザーを迎えた。

「シュトライザー、シュトライザー、我らが皇帝、この地上の真の王! 全ての勝利がその頭上に輝かんことを、我ら一同、心から願わんと!」

 シュトライザーは将兵たちの歓呼を手でもって静止させると、厳かに、そして短く、だが力強い声で宣言した。

「諸君、これより計画を発動する。アスフォール王国を、そして魔法使いたちを征伐する時がきた。さぁ、将兵諸君、進め。勝利と真の自由を我らに。帝国万歳!」

 式場に万雷の歓声が響き渡る。

「帝国万歳!」
「帝国万歳!」
「帝国万歳!」

 ・・・・・・この夜、第七十二先遣師団がピレーネ山脈の麓にある辺境地帯を襲撃する。

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 国民承諾のもと、帝国は莫大な予算を投じて軍事力を大幅な強化に乗り出した。広大な敷地を誇る基地が各地に造られ、軍需関連専用の工業地帯も建設された。必要な資材や物資は軍に優先的に配分され、膨大な量の武器や弾薬、そして兵器類が生産された。戦争に必要となるであろう物資や食料も大量に用意され、備蓄された。新技術が研究され、開発された。志願兵による人体実験すらおこなわれ、強力な人間兵器も誕生した。小型の飛行船がピレーネ山脈を越えて王国に密かに侵入し、諜報活動が活発化された。アスフォール王国の国内情勢や軍事情報、それに奴隷たちの現状が帝国へと伝わり、それがアスフォール王国打倒へと向けたさらなる動きへと加速した。
 そしてアスクード皇帝が定めた五〇年目を翌年に控えた帝国暦二七四年、アスフォール王国に潜んでいた密偵から情報が送られてきた。それはエンチャント・カードに関する情報であった。

「本国ニ伝達。王国に革新的技術ガ誕生。戦力ノ大幅ナ強化ガ予想サレル。危険、極メテ危険・・・・・・」

 アルゴス・ヨーゼフが開発し、エステル・フォンライトによって生産体制が確立されたエンチャント・カードは、魔法が使えぬ者でも魔法が使えるようになるという画期的な魔具であった。帝国が危機感を覚えたのはいうまでもない。ただでさえ厄介な魔法が誰にでも使えるようになる――それはすなわち、王国全体の国力と軍事力が肥大化することを意味していたからだ。
 急遽、緊急の会議が開催された。

「ぐずぐずしていては取り返しがつかなくなる。もはや一刻の猶予もない!」

 第一七代皇帝レオポルドは会議の場でそう発言し、計画を一年早め、実行することを決めた。
 その矢先だった。先天性の心臓病を患っていた皇帝が胸に強烈な痛みを感じ、苦悶の表情を浮かべながら床に倒れ、手当てや治療のかいもなくそのまま息を引き取ってしまったのである。一時は「魔法使いの呪殺攻撃か!」あるいは「デル・モアの呪いか!」などといった噂が流れたほどだったが、跡を継いだ新皇帝のシュトライザーは父帝の葬儀を厳粛に済ませると、軍や国民に冷静を呼びかけ、父の意思を継ぐことを表明することで動揺を防ぐことに成功した。

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「我が帝国は先へと進む。いつの日にか魔法を超越するために。アスフォール王国を打倒するために!」

 第五代皇帝イルマンスはそう宣言し、帝国はさらなる成長を遂げることとなる。
 ラヴァクトが残した記録を頼りに帝国は次々に新発明をしていった。帝国暦八九年には火薬が作られ、帝国暦一五八年には蒸気を動力とする機械産業を完成させるまでに至り、帝国暦一九二年には小型動力機関「エンジン」を搭載した自動車が大地を走り、翌年には水素を浮力として使用した飛行船が空を飛び、帝国暦二○七年には水力発電所や火力発電所が相次いで建設され帝国全土に安定的に電力が供給されるようになった。他にも大小様々な発明が成され、実用化に成功している。これら全ては魔法によるものではなく、論理と技術によって裏打ちされた「科学」という力を駆使しての進歩であった。
 時が経過するごとに、帝国の国力は確実に増していった。
 そしてついに帝国が動きだす。
 帝国暦二二五年、当時の皇帝アスクードの命によって「五〇年計画」が策定され、アスフォール王国を打倒するための本格的な行動が開始されたのだ。五〇年間力を蓄え、そして五〇年後、王国を滅ぼすために。

「力だ! 力が要る! 力が必要なんだ!」

 第一五代皇帝アスクードは帝国議会で率直に訴え、そして認められた。満場一致で。
 計画を実現するためには強力な軍事力が必要となる。そのため、国家予算における軍事費の割合が五〇パーセントに引き上げられることとなった。それも計画が実行に移されるまでの五〇年間、ずっとだ。
これは国民生活に相当な負担を強いる暴挙であったが、国民はこの決定を受け入れた。アスフォール王国の打倒は帝国の悲願であったと同時に、国民にとっても悲願であったからだ。自分たちの祖先がどのような境遇におかれ、どのような扱いを受けてきたか、帝国の国民は全員が知っている。学校の歴史教育でも習うし、口伝によっても伝わっている。アスフォール王国が、そして魔法使いたちがいったいどのように奴隷たちを扱ってきたのか、知れば誰もが怒りを覚え憎悪する。ゆえに、世代が変わっても、アスフォール王国と魔法使いに対する敵意は消えていなかったのだ。

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 だがそれでも、奴隷たちは怯むことなく先へと進んだ。ラヴァクトが口にするまだ見ぬ土地と未来を信じて。
 奴隷たちの逃避行は一ヶ月に及んだ。その間、一万人を超える犠牲者が出たが、それでも彼らはついに新天地に辿りついた。
 そこは温暖で緑豊かな土地であった。木々には色とりどりの果物が実り、川には子供ほどの大きな魚が群れを成して泳いでおり、原始的な大型の草食獣が大群で闊歩している反面、熊や獅子などの肉食獣は一切おらず、大地は肥沃でさらには豊富な地下資源にも恵まれていた。
 まさに理想郷。
奴隷たちはこの地での再出発を目指した。
 新天地に辿りついた七四一九名の奴隷たちは精力的に活動した。土地を耕し田畑を作り、森林を伐採して家を建て、多産を奨励して人口を増やした。この間、ラヴァクトは夢で視た世界の事象を事細か詳細に伝えて記録として残している。奴隷たちは生きること以外の学を持たず、また文字の読み書きもできない者たちばかりであったが、極少数の極めて明晰な頭脳を有する者たちがラヴァクトの話を体系化し、具現化することに成功した。
奴隷たちを率いたラヴァクトは、その後、病に倒れ、志半ばのわずか三十一歳という若さでこの世を去ったが、彼が二〇年あまりに渡って遺した数々の夢の記録は膨大な資料となって世に残り、それらはその後も奴隷たちを導いていく原動力となった。ラヴァクトの死後、奴隷たちは彼の遺志を継ぎ、この地を国とすることを決めた。国の名を「ラヴァクト」としたのは亡きラヴァクトへの感謝を込めてであって、国号を「帝国」としたのはいつか必ずアスフォール王国を打倒するという決意を込めてであった。王国暦七二五年をもって帝国暦元年とし、ラヴァクト帝国誕生となる。
 帝国の初代皇帝には若干八歳のラヴァクトの子、ツァーラが選ばれた。その後、孫のクアト、ひ孫のティスカ、その子どものジュナイドと代を重ねていき、国の基盤を確固たるものとしていった。歴代の皇帝たちはラヴァクトのような超常の力はもっていなかったものの、十分に有能な人物ばかりであり、彼らと共に帝国は成長を続けた。

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「ひぃぃ、助けてくれぇぇぇぇぇ・・・・・・」

 看守たちは口々に命乞いをしたが無駄であった。看守たちはひたすら殴られ、あるいは砂を口に詰められて窒息させられ、彼らが奴隷たちにしてきたあらゆる苦痛を与えられながら絶命していった。収容所は辺境にあるため、どんなに騒いでも異変が察知されることは皆無であった。
 ラヴァクトは死んだ看守の血を使って文字を残した。

「いまに見ていろ」

 と。
 ちなみに、その看守はラヴァクトに拷問を加えた看守であった。彼は全身が傷だらけの血塗れとなっており、歯を抜かれ、舌を切り取られ、局部を潰され、そして目を抉られていたが、永遠に視力を失ったラヴァクトがその様子を知ることはなかった。
 奴隷たちは看守たちへの復讐を終えると、すぐに脱出のための準備に取りかかった。ありったけの食料が集められ、ありったけの衣服を着込み、あるだけの道具や武器を持って、彼らはピレーネ山脈を目指した。
 もはや後には引けない。彼らはラヴァクトの言葉を信じて彼に付き従った。
 逃亡する一万八〇〇〇人を率いるラヴァクトは彼らの先頭を進んだ。両眼を抉られて一切の視力を失ったはずの彼であるが、その足取りはまったく揺るぎがなかった。まるで「視えて」いるようであった。
 ピレーネ山脈は険しい山だ。人が登るには適さないといわれているが、まったくその通りであった。斜面は急で岩や石がごろごろと転がっており、深い亀裂や谷が口を開けて待ち構えている。標高が五〇〇〇メートルを超えたあたりからは雪が積もっており、八〇〇〇メートルを超えると雪の層はさらに厚くなった。
 先へと進むつど、山をより高く登るつど、奴隷たちの犠牲者は増えていった。餓死者や凍死者が続出し、谷底や氷の裂け目に滑落して永遠に行方を絶った者は数知れない。雪崩に巻き込まれ、一瞬で多くの者が死んだこともあった。ついていくことを断念して自殺する者もいた。発狂し、仲間に無差別に襲いかかって殺された者もいる。それは想像を絶する苦難の行進だった。

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「これで余計な夢も見ずにすむだろうよ」

 そう吐き捨てて。
 牢房に戻されたラヴァクトの凄惨な姿を見て、奴隷たちは涙を流して悲しんだ。ラヴァクトがあえて殺されなかった理由は、おそらくは見せしめのためと思われたが、奴隷たちは看守たちの非道なおこないに対し激しい怒りを覚え、海よりも深く彼らを憎悪した。
 奴隷たちは哀れなラヴァクトを交代で手当てし、その介あってかラヴァクトは一命を取りとめた。ただ、目覚めたラヴァクトは以前の彼とはまるで別人へと変貌を遂げていた。顔からは笑みが消え、表情も乏しくなり、発する声は神々を嘲弄するかのように冒涜的であった。にもかかわらず、奴隷たちは以前にも増してラヴァクトの話に耳を傾けるようになっていた。変貌を遂げたラヴァクトが、ナニか人を惹きつける魅力を覚醒させたのかもしれないが、それは定かではない。だが、これより先、ラヴァクトは強力な指導力を発揮して奴隷たちを率いていくようになる。
 ラヴァクトは告げた。

「山の向こう側に豊かな土地がある。そこにぼくたちの国を創ろう。そしていつの日にか、この国を倒すんだ」

 本来であれば笑うべき宣言であったはずだが、奴隷たちは不思議と笑わず、むしろラヴァクトの話を信じた。ラヴァクトの話は房から房へと広まり、奴隷たちはラヴァクトの導きに従うことに決めた。秘密裏に脱出のための計画が練られたが、密告者が誰ひとりとして出なかったことは驚嘆に値する奇跡であったといえよう。
 計画は新月の夜に実行に移された。
 収容所の各牢房で一斉に騒ぎが生じたのだ。異変に気づいた看守のひとりが騒ぎを鎮めるため扉を開けた瞬間、奴隷たちが彼らに襲いかかった。大規模な暴動が発生した。看守は全員、剣や槍で武装していたが、一万八〇〇〇人もの奴隷に対抗することは不可能であった。奴隷たちは石や棒きれなど手にできる物をすべて武器にして看守たちをめちゃくちゃにした。

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 ある時、ラヴァクトの話を偶然、看守が耳にした。
 ラヴァクトは次のように話していた。

「その世界に暮らしている人間たちは一切の魔法が使えないんだ。でも彼らは魔法を使わなくても神に匹敵する力を手にし、そして神が住む世界にも勝る世界を造りあげた。その世界を見てぼくはわかった。魔法は絶対の力じゃない。むしろ、人間が産み出す自由な発想と積み上げてきた英知こそが人間が魔法にも勝る恐るべき力なんだよ」

 即刻、ラヴァクトが部屋から連れ出され、懲罰にかけられたことはいう間でもない。魔法に対する侮辱はすなわち魔法使いたちに対する侮辱である。厳しい罰に値する不敬罪であった。
 ラヴァクトは拷問にかけられた。多くの大人たちが慈悲を懇願したが無駄であった。身代わりを申し出る者もいたが、振り下ろされた鉄拳がその返答であった。
不敬罪と決めつけられれば子供といえど容赦されない。三日三晩、ラヴァクトは拷問にかけられた。彼は鞭で打たれ、爪を剥がされ、皮をむかれ、焼き鏝を押し当てられ、歯を抜かれ、熱した油を口に流されて地獄を見た。それでも彼が死にいたらなかった理由は、身体の強靭さよりもむしろ驚異的な生命力ゆえであったに違いない。
 全身傷だらけの血塗れで、もはや虫の息となったラヴァクトに対し、看守は髪を掴んで引きずりまわし、残虐性に満ちた醜悪な表情でラヴァクトに問いかけた。

「どうだ? おまえがいう世界の力とやらでこの世界を変えてみろ。できまい。魔法に勝る力などこの世には存在しないのだ。そのことを認めれば、この苦痛から解放してやるぞ。どうだ? どうする? 間違いを認めるか? ん?」

 ラヴァクトは小さな声で、しかしはっきりと言った。

「・・・・・・魔法に・・・・・・勝る・・・・・・力は・・・・・・・・・ある・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・科学という力だ」

 看守は怒り狂い、ラヴァクトに乱打を浴びせた。それでも怒りが収まらないその看守は、最後にラヴァクトの瞳に太い針を突き刺し、両眼を抉りだした。

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看守たちにとって奴隷はどうでもいい存在だったのだ。奴隷たちが生きていれば私腹を肥やすこともできるし、死ねばこの辺境から解放される。ただそれだけだった。
 むろん、看守たちの思考と奴隷たちの心境は違う。奴隷たちはいつ死ぬのか、あるいはいつ殺されるかもわからないまま怯え、絶望した状態で毎日を送っていた。憎悪や反感を抱く余裕すらないほど彼らは追いつめられていた。
 ラヴァクトという少年がおかしな夢を語りはじめたのはそんな頃である。
 ラヴァクトはミスリル鉱山が閉山した年に生まれた子供だった。産まれた時から病弱で身体が弱かった彼であるが、不思議と強靭な生命力を発揮し、過酷な収容所で今日まで生き延びていた。奴隷には時として超越的な力を有する者が生まれる場合があるが、彼もそのひとりだったのかもしれない。
 大人たちに対し、ラヴァクトはよく夢を見るのだと語った。夜、眠っていると、この世界とはまったく違う世界の夢を見るのだと。

「その世界に魔法はないんだ。でも代わりに、もっと凄い物がたくさんある。巨大な鉄の塊が鳥のように空を飛び、夜の町は星のように輝いていて昼よりも明るく、馬にひかれない馬車が高速で走りまわり、水中に潜っても進むことができる船があって、天空に輝く月にだって行ける船があって、人々は小さな道具を使って世界中のどこにいても話をすることができて、髪の毛一本からでも自分の分身を造ることができて――魔法じゃない。けど、魔法のような世界の夢を見るんだ!」

 ラヴァクトは目を輝かせながら大人たちに語りかけた。子どもらしい屈託の無い無邪気な笑みを浮かべながら。
 大人たちは子供の創り話と思いながらも、ラヴァクトの話に耳を傾け、そして笑った。奴隷たちにとってはラヴァクトがする創り話が唯一の娯楽であり、楽しみであったからだ。大人たちはラヴァクトの話を微笑ましく聞いていたが、ラヴァクトの話が日を追うごとにより鮮明になっていくことに気づく者はいなかった。

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 ラヴァクト帝国の成立はいまから三〇〇年ほど前までさかのぼる。彼らの祖先はカザフの強制収容所より逃亡した奴隷たちであった。
 王国暦七〇〇年当時、カザフの収容所には一万八〇〇〇人もの奴隷が収容されていた。ミスリルの鉱山が枯渇して以降、彼らに与えられた仕事は食料の自給を目的とした農作業と看守たちの暇潰しの相手であったが、その生活はひと言でいえば地獄であった。
 収容所における奴隷たちの環境は極悪だった。ミスリル鉱山が枯渇して以降、国からの食料の配給は止まり、奴隷たちは一日一杯の水のようなスープと屑イモだけの食事が強制された。自給のために開墾された広大な農場では農作物が豊かに実っていたが、それらは看守たちによって横流しされるため奴隷たちの口に入ることはまずなかった。そのため奴隷たちは雑草を食み、ネズミを捕まえ、地を這う虫を喰らいながら飢えを凌ぐほかなかったのである。
 看守たちは暇潰しのため奴隷たちをよく弄った。カザフの地は王国の辺境に位置しており、未開発のまま取り残されていたため、娯楽の類が一切なかったからだ。
 毎日毎夜、奴隷たちの苦痛に満ちた悲鳴が収容所から聞こえていた。
 ある奴隷は両手の爪を全て剥がされたうえでイモ掘りを強制させられた。別の奴隷は牛馬の真似をさせられて鞭で打たれた。野獣を狩るために両手両足を切断された状態で森林に放置された奴隷もいる。冬場、生きたまま極寒の外に裸で放置され、凍り漬けの彫像にされた者も少なくない。美しい奴隷は毎夜、看守たちの性の慰み者とされ、懐妊すれば胎児の性別を当てる賭けに使用され、短剣で腹を裂かれる場合もあった。暴力は日常的にふるわれ、それによって殺される者も多かった。
ミスリル鉱山が閉山した直後、カザフの収容所にはまだ三万人以上の奴隷たちがいたが、飢えと暇潰しによってわずか数年で一万八〇〇〇人にまで減少していた。死んだ奴隷たちは丁重に弔われることなく畑に埋められて農作物の肥料にされた。細切れにされ、飼育されていた豚の餌にされた遺体も多い。食料が不足する冬場には他の奴隷たちに死んだ同胞の肉を無理やり食わせることさえあった。それによって疫病が蔓延することもあったが、看守たちの知ったことではなかった。

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 王国暦一〇〇〇年を目前に控えたアスフォール王国を襲った未知の勢力――ラヴァクト帝国。この国家の存在をアスフォール人で初めて確認したのは、おそらくはボルティーア・シャルペン率いる登山隊であろう。半年前、彼らは一ヶ月という時間をかけてピレーネ山脈の最高峰であるトルティウス山の征服に成功し、その足で山脈の反対側へと下山していった。ピレーネ山脈の反対側になにがあるのかを知るために。
 アスフォール王国のとある高名な地質学者が唱えた説によると、ピレーネ山脈はいまから三五〇〇万年ほど前に巨大な島が大陸に衝突した際に盛り上がって出来たものであり、ゆえに山脈の向こう側にはまだ見ぬ陸地があるのだという。その証拠として、山脈では海洋生物の化石が無数に発見されているそうだ。
その説が真実であるか、あるいは間違っているのか、それを知るためにボルティーアら一行は反対側へと降りていった。
 その説は正しかった。山脈の向こう側には確かに陸地が存在していた。ただし、ボルティーア一行にとって予想外だったことは、そこにはすでに国家が存在しており、しかもアスフォールに対する侵略を計画していたということであっただろう。
 ボルティーアら一二〇名の魔法使いは全員が捕らえられ、その多くが苛烈な尋問によって命を落としたが、それでもわずかに数名が隙をついて脱出し、アスフォール王国に危機を報せようとした。だが、帝国の追跡と過酷な登山で次々と命を落とし、どうにか王国へと戻ってこれたのは最年少の登山隊員クルト・ミルナテただひとりであった。
 彼は保護されて収容された療養施設にて、

「未知の敵が攻めてくる! 未知の敵が攻めてくるんだ!」

 と繰り返し訴えたが相手にされず、やがて正気を失ったものと判断されて大量の鎮静剤を投与されて閉鎖病棟に隔離されてしまった。それでも彼はなおも訴え続けたが、その訴えが報われることはついになかった・・・・・・。

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