具体的な計画としては、魔法使いたちの蜂起と同時に、アルゴスの魔法によって彼らの周囲に長大な土壁を構築し、包囲する。そしてエステルの魔法によって包囲網の中に一時的な低酸素状態を作りだすことによって動きを封じる。もしその包囲を突破する魔法使いがいたとしても、リュードを筆頭とする剣闘士たちが迎撃し、駆逐する。これによって反対勢力を押さえ込むことができるだろう。
先におこなわれた帝国との全面戦争によって力のある魔法使いたちはことごとくが戦死を遂げており、王都に残っている魔法使いたちは「魔法使い」と称すべきか疑問が残るほど力が弱い者たちばかりである。ゆえに、エステルは自分たちだけで迎え撃つことが可能だと考えていた。
 だが、どんな計画も、必ず計画通りに進むものではない。人間が全能ではなく、人智に限りがある以上、必ず不足の事態が生じるものだ。
 エステルにとって予想外だったのは、王宮に集合したフォレイト街の住民たちがとった行動である。王宮に到着するなり、住民たちは一斉に悲痛な声を上げ、まるですがるように泣き出したのだ。

「エステル様、降伏しないでください! まだ死にたくありません!」
「怖い! 怖いッ! 死ぬのが怖いですぅッ!」
「殺されたくない! 死にたくないッ!」
「帝国に降伏しないでください! お願いします!」
「まだ死にたくない、生きたいんです!」

 激しい慟哭と悲哀に咽ぶ魔法使いたちの群れを見て、エステルたちは絶句した。一瞬、眼下で何が起こっているのか理解できなかったからだ。

「ど、どういうことなの、これは・・・・・・?」

 エステルはうろたえた。否、エステルだけでなく、リュードも、アルゴスも、他の剣闘士たちも、いま目の前で起きている事象に狼狽せずにはいられなかった。王宮に集結した群集がどのような行動をとるか、ある程度は予測していたが、このような状況は想定外の出来事であったからだ。

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「本日、一二月二日をもってエステル・フォンライトがこの国の新たなる統治者として王位に就くことを宣言する。なお、もしこの決定に異議を唱える者があれば、実力でもって否定すべし」

 極めて挑発的な文言であり、まるでフォレイト街の住民たちに義憤の蜂起を促すかのような文章であった。だが、フォレイト街の住民たちを驚かせたのはそこではなかった。フォレイト街の住民たちは最後に記されていた一文に目を奪われたのである。

「アスフォール王国は交戦継続能力の消失に伴い、新国王の責任によってラヴァクト帝国に対し降伏することとする」

 新国王より発布されたその文言に、彼らは戦慄し、恐慌をきたした。

「王国が敗けるッ!」
「王国が滅びるッ!」
「帝国に殺されるッ!」

 フォレイト街の住民たちはいても立ってもいられなくなり、群れを成して王宮へとむかいはじめた。だがそれは、新国王として即位したエステルにとっては想定内の出来事であった。
 王国の降伏など、非支配階級である魔法使いたちには当然、受け入れがたいものであり、激しく反発するであろう。魔法使いたちは団結して潜王エステルに対し反旗を翻し、不当な行為によって王位を得た新国王を玉座から引きずり下ろそうとするに違いない。だが、それこそがエステルが期待し、待ち構えている好機であった。その動きを誘発するために、あの挑発的な文言を付随したのだから。
 帝国に対する降伏が目的である以上、新体制の確立は一時的でよい。ほんの少しだけ時間を稼げればそれでよいのだ。王宮にやってきた魔法使いたちを一網打尽とし、自分に刃向かう勢力を一掃する。その間に帝国への降伏をすみやかにおこない、この戦争を終結させる。それがエステルの考えであった。

「さぁ、来るならきなさい。返り討ちにしてあげるから」

 王宮へと集合した魔法使いたちの大群を、エステルたちは臨戦態勢を整え、王宮にて待ち構えていた。

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「こ、これはいったいどういうことだ、エステルよ・・・・・・? まさか、今ごろになって父親の仇でも討ちに来たのか?」
「いいえ、違います。目的は王位の簒奪。すなわち、あなたの地位を奪いに来たのです」
「王位の簒奪、だと? 王位を奪い、そなた、なにをするつもりだ?」
「この戦争を終結させるため、そして王国の歴史に終止符を打つために、帝国に降伏いたします。これ以上、無辜の血を流さないために」

 その解答を聞き、国王以下重臣たちは激発し抗議の言葉を発したが、それは長くは続かなかった。エステルの魔法が炸裂し、室内に鋭い疾風がおこったのだ。疾風は国王たちの首と胴を切り離し、反撃と抵抗の機会を与えることなく彼らの命を奪った。それで終わりだった。
 王宮はエステルら一行によって制圧され、デル・モアの血脈による王国の支配は終焉を迎えた。王国の開闢より一〇〇〇年を目前に控えた、寒い冬の出来事であった。

 昨夜、王宮で激しい騒乱があったことをフォレイト街の多くの住民たちは知っていたが、王宮で何が起きていたかまでは知ることができなかった。王宮とフォレイト街の間には天高くそびえる頑丈で強固な城壁が構築されており、それが王宮内部の様子を外部に漏らすことを阻んでいたのだ。
 それゆえ街では夜間にも関わらず様々な噂が飛び交っていた。特に多かったのが、王都を包囲している賊軍がついに王宮に侵入したのだ、という噂と、反乱が発生して王宮が反乱勢力によって制圧されたのだ、というものであった。翌一二月二日に王宮から発表された正解は後者の方であった。
 事実を知り、人々は驚愕した。
 没落した名門貴族・フォンライト家の現当主エステル・フォンライトが反乱を起こし王宮を制圧。そして国王ベスディア以下、全重臣たちを殺害して王位を簒奪。それに伴い王権を含む全ての権力を掌握したというのが昨夜の騒乱の真相であった。そして発表された声明文には次のような文言が付随されていたのである。

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リュードの剣が月光を反射し、その光が殺到する近衛兵の間を通過した刹那、近衛兵たちが次々と崩れ落ち、自らがつくった血泥の海に沈む。彼らは自分たちの身にいったいなにが起きたのか、理解することなく死んでいったに違いない。アルゴスの治療を受け、リュードはすでに完全回復を遂げている。リュードが前へと進むつど、死が量産され、屍が積み重なった。
 まるで鬼人のごとく振る舞い、同僚たちを次々と斬り倒していく侵入者を見て、駆けつけた他の近衛兵や魔法使いたちは怯み、恐怖を覚え、絶句し、立ち尽くした。そんな彼らに対し、今度は地下通路より次々と現れる剣闘士たちが容赦なく襲いかかる。

「リュード殿に遅れをとるな! エステル様のために死のう!」

 剣闘士たちがエンチャント・カードを発動させ、魔法攻撃にて討って出る。炎が起こり、風が吹き荒れ、噴水の水が重力に逆らって踊りまわり、地面が裂け、あるいは隆起し、雷が矢となって次々と放たれた。エンチャント・カードで武装した剣闘士たちは一人ひとりが魔法騎士に匹敵する力を持つ。くわえて彼らは闘技場での実戦経験も豊富であり、ゆえに、王宮側の警備など敵ではなかった。
 勢いを増す反対勢力の攻勢に対し、当初は善戦していた王宮側もやがて守勢に立たされるようになり、最後は圧されに押されて崩れた。
 数からいえばエステルらは少数であり、王宮側の勢力と比較して二〇分の一にも満たないほどだ。だが、エステルたちは強かった。やがて王宮側は侵入者の苛烈な攻撃を支えきれなくなり、総崩れとなって退却と逃走、そして降伏を余儀なくされた。約一時間ほどの戦闘行為によって、王宮は侵入者の手に落ちた。
 この時、王宮の深くにある会議室では、国王ベスディア以下重臣たちが戦局打開のための会議を深夜になっても続けていたが、侵入者の報告を受け、騒然となった。彼らはついに賊軍が王宮にまで侵入したか、と緊張したが、到来した侵入者を見て驚愕した。会議室に現れたのがエステルだったからである。成長していたが、幼き頃の面影が色濃く残っており、彼らはすぐに侵入者が何者であるか気づいた。
 ベスディア王が呻くような声で問いかける。

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「決めた。わたしは王都に捕らわれている奴隷たちを救う。それが魔法使いの一員として彼らに果たすべき贖罪だ」

 エステルの決定に対し、リュードをはじめ、アルゴスや付き従う剣闘士たちは誰も意を唱えなかった。自分たちの主人がどのような人物であるか彼らは知っている。そして彼らは自分たちが果たすべきことも知っていた。ゆえに、成すべきことはただひとつ。身命を賭してエステルに付き従うのみだ。
すぐに計画が練られ、実行に移された。
 王都は現在、帝国軍によって包囲されている。四方には大軍が展開し、街道はもちろんのこと、周辺域すべてに厳しい監視の目が張り巡らされており、これを正面から突破することは容易ではない。だが、エステルたちは帝国軍が見逃していた「道」の存在を知っていた。
 王都郊外の山の中にある集団墓地には、非常時の際、王宮から王族や貴族たちが脱出するための長大な秘密の地下通路の出口がある。本来であれば一部の要人にしか知らされていない極秘の情報だが、王国の打倒を計画していたエステルはこの情報をだいぶ前に入手しており、活用することにしたのだ。
 一二月一日の深夜、後に「染血の一夜」と呼ばれる事件が起こる。秘密の地下通路よりエステルら一行が王宮へと侵入し、反旗を翻したのだ。
当時、王宮には二〇〇〇名を超える近衛兵と一〇〇名の魔法使いが警護のため常駐していたが、彼らは突如として出現した侵入者たちに驚き、驚愕と混乱の渦中に叩きこまれた。長年に渡って王宮での事務的な任務にあたっていた彼らにとっては、王宮そのものへの奇襲攻撃など想定外の出来事であって、すみやかに対応することができなかったのだ。それでも慌てて警鐘が鳴らされ、侵入者に対する排除行動が開始されたが、彼らにとって予想外だったのは侵入者たちの強さであった。

「行きなさい、リュード。あなたの力を見せつけるのよ」
「御意」

 エステルに命じられ、リュードがその武威をいかんなく発揮してみせた。

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帝国軍の襲来を受けたカザフの町を脱出したエステルら一行は、途中、重傷を負っていたリュードの治療のため、一時的に身を潜めた後、帝国軍の侵攻を避けるように大きく迂回して王都を目指した。
 その道中にて一行は、立ち寄った町や村で王国の情勢が急激に悪化していることを知った。しかもその悪化の度合いは、エステルが想定していたものよりも遥かに深刻な状態であった。
来襲した帝国軍はアスフォール全土で猛威をふるい、各地の地方軍は軒並み敗れ去ったという。侵略者を迎え討つために出撃したアスフォール正規軍は三つの主戦場で完膚なきまでの大敗を喫し、王国は組織的な抵抗が絶無となるほどの大打撃を受けたとそうだ。その戦闘においてヘクトール・ザムエルやハーメル・ロスキュリアスが戦死を遂げたと聞いたときはさすがに驚きを禁じえなかった。そして混乱におちいったアスフォール首脳陣が苦悩の極、数百万人の奴隷を人質にとって籠城戦を実施すると聞いて、失望と憤りを覚えずにはいられなかった。

「王国が滅びるのは当然だわ。でも、その滅びに無辜の民を道連れにすることは決して許されることではない」

 エステルの発言には容赦がない。たとえ帝国軍が襲来しなくても、王国はエステルの手によって、あるいは王国の打倒を目指す他の誰かによっていずれは滅ぼされていただろう。ゆえに、アスフォール王国の終焉は必然の出来事であって、悲しむべきことではない。
 だが、その滅びに数百万人もの奴隷たちを道連れにすることは、到底、容赦できぬ。滅びの運命は不当な栄華を誇ってきた魔法使いたちのみで享受すべきなのだ。断じて、無辜の民を巻き込むべきではない。
現在、帝国軍は王都への攻撃は控えているが、いずれは総攻撃に移るだろう。そうなれば狂乱した魔法使いたちによって多くの奴隷たちが殺されるはずだ。そんな愚行は絶対にさせるべきではない。阻止するべきだ。

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奴隷解放を目指す帝国軍にとっては奴隷たちの救出はなによりも優先されるべき課題であり、そう迫られたからには進軍を躊躇せざるを得なかったのだ。王都にはいまもなお数百万人の奴隷たちが捕らわれており、窮地に追いつめられた魔法使いたちなら本当に虐殺しかねないと思われたからだ。奴隷たちを見殺しにすることは帝国にはできなかった。

「卑怯な魔法使いどもめ。だが、どうやらこれまでのようだな」

 苦々しい呟きではあったが、シュトライザーの言葉には余裕が存在していた。
 すでに敵主力の駆逐は完了している。王都に残っているのはもはや戦力とは呼べぬ魔法使いたちばかり。帝国の勝利はもはや確約されたも同然の状況だ。ならば焦って無用な犠牲を生むよりも、じっくりと時間をかけて勝利を確実にするが最良の策だと思われた。
 シュトライザーは全軍に王都に通じる主要な街道を全て封じるよう命じた。王都を兵糧攻めにし、内部からの自滅を誘うためにだ。
 集結した帝国軍は完全に王都を包囲した。街道には検問所が設けられ、小隊単位での巡視が強化され、不審人物はすみやかに拘束されて、王都への人や物の流れを完全に遮断された。
 だが、帝国軍による包囲が完成しても、それは完全ではなかった。帝国軍が見過ごしていた「道」が存在していたのである。そしてその「道」を通じて、とある一団が王都への潜入を果たしてしまったのだ。
 この一団を見逃したがために、後に帝国は、多大な犠牲を被ることになる。

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 一方、帝国の魔法使いたちへの処遇は冷酷を極めた。捕縛された魔法使いたちは財産を没収され、一五歳未満の子どもを除くほぼ全ての魔法使いたちが公開で処刑され、あるいは奴隷たちに引き渡されて地獄の苦しみを味わいながら殺されていった。大声で命乞いをする者や助けを求める者は多かったが、それら訴えが認められることは皆無であり、魔法使いたちの処刑や処分は粛々と進められていった。一部、奴隷を慈悲深く扱っていた魔法使いたちは助命されたが、そんな者は極稀な事例でしかなく、大半の魔法使いたちの最後は悲惨であった。それらの情報がフォレイト街には毎日のように伝わってきており、魔法使いたちの様相は日を追うごとに悪化しつつあった。
 フォレイト街では将来を悲観し、自殺する魔法使いが続出した。逃亡を選択し、街から逃げ出す者も増えた。恐怖のあまり発狂し、突如として「私は奴隷たちの味方だ!」と叫んで同胞たちに襲いかかり、殺された魔法使いもいた。
 王宮ではベスディア王以下、重臣たちが集まり、連日のように打開策を見出すための会議が開催されていたが、時間だけが虚しく経過するだけであった。かつては高慢に振る舞っていた彼らに昔日の面影はない。みな疲れ、憔悴しきっている。特に自慢の息子たちを喪ったザムエル卿とロスキュリアス卿の心神喪失の状態は激しいものであり、彼らは生きたまま屍と化して会議に参加している有り様であった。有効な案もでず、会議は空転するばかり。それでも、この現状をどうにか打破すべく、ひとつの案が提案され、実施されることになった。それは帝国軍の進撃を少しでも遅らせるために採用された案であったが、端から見れば単なる時間稼ぎに過ぎない策であり、王国の窮状ぶりを内外に知らせるだけの措置でしかなかった。
 一一月二七日、王都ルクナバータで初雪が観測されたその日、アスフォール王国より使者が派遣され、帝国軍に密書が届けられた。
 内容は要約すれば次のような文言になる。

「進撃を停止せよ! さもなくば王都にいる全ての奴隷を皆殺しにする!」

 賊軍は奴隷たちの存在に重きをおいている。ならば、奴隷たちを人質として使えば要求が通るのではないか。アスフォール首脳陣はそう考えたのだ。
苦肉の策だったが、効果は劇的だった。
帝国軍が進撃を止めたのである。

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賊軍であるはずの帝国軍は極めて秩序正しい軍隊であり、占領下における暴力や略奪、婦女子に対する暴行や殺人などはおこなっておらず、また、市民に弾圧を加えたり、日常生活を阻害するような真似も一切おこなっていないとのことであった。
 アスフォール王国が滅びても自分たちの暮らしに変わりはないのではないか。そう思える安心感が市民の意識の根底に蔓延していたからこそ、王都の市民たちは恐慌をきたすことなく落ち着いていることができたのだった。
 一方、フォレイト街で暮らす魔法使いたちである。彼らは一般市民たちのように楽観的ではいられなかった。アスフォール軍が大敗したとの一報が王都に伝わって以降、魔法使いたちの狼狽ぶりは尋常ではなく、彼らの間には不安と焦燥が蔓延していた。フォレイト街へと通じる門は全てが固く閉ざされ、街中にはかつてないほどの厳重な警備が敷かれるようになり、反逆と暴動を警戒して奴隷たちはみな地下牢へと閉じ込められてしまっていた。魔法使いたちは市民たちのように楽観的ではいられなかった。彼らは迫り来るラヴァクト帝国という名の破滅に怯え、恐怖し、口々に不安を囁きあっていた。魔法使いたちにも緘口令が敷かれていたが、そんなものは無意味であった。

「ラヴァクト帝国と自称する賊軍は、なんでも、逃亡した奴隷たちの末裔だそうじゃないか・・・・・・」
「らしいな。ゆえに、魔法使いに対して激しい憎悪を抱いているそうだ・・・・・・」
「奴ら、奴隷共に対しては寛容で、奴隷たちはいまや我が世の春を愉しんでいるそうじゃないか・・・・・・それと比較して魔法使いたちに対する処遇ときたら・・・・・・」
「占領された地域に暮らしていた魔法使いたちは軒並み捕らえられ、全員、殺されたそうだ。公開で処刑された者が多いそうだが、一部の魔法使いたちは奴隷たちに引き渡されて私刑にされたらしい。その死に様は無残で悲惨なものだったそうだぞ・・・・・・」
「ああ、おれたちも殺されてしまうのだろうか・・・・・・」
「いやだ、死にたくない・・・・・・死にたくない・・・・・・」

 帝国は奴隷たちに対しては寛容であり、奴隷解放を宣言した後には、十分な食料や衣類が配布され、長年に渡って酷使され傷つけられてきた心と身体に対する治療が施された。また、奴隷たちの社会復帰を促すための公共工事も開始され、まずはその第一弾として、彼らが暮らすための住宅建設が各地ではじめられていた。奴隷たちは無償で酷使される身分から賃金を得て働く労働者へと昇格し、占領下における元奴隷に対する差別も禁止されて、デル・モアによって設定された階級制度から名実共に解放されつつあった。

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 アスフォール王国は震えていた。
ラヴァクト帝国を自称する賊軍が王国に対し、反旗を翻して攻めてきたとの一報を受けたとき、アスフォール王国は激怒し、怒りによって震えていた。
 だが、いまやそれとはまったく異なる理由で震えていた。
 南より攻め寄る賊軍を迎え撃つために、出撃した総兵力二〇〇万の王国軍が壊滅したとの報告を受け、王都ルクナバートに激震が走った。同行していた王立魔法騎士団と王立魔法軍団の全滅、そして王国最強の魔法騎士と王国最高の魔法使いの戦死の報せもそれに拍車をかけた。
 アスフォール王国は震えていた。誰もが予想していなかったその報せに誰もが驚き、そして王都を目指して進撃を続ける帝国軍に対し、アスフォール王国では誰もが怯え、恐怖し、震えていた。
 王都ルクナバータでは人々が不安を囁きあっていた。

「聞いたか。アスフォール軍は大敗したらしい。ラヴァクト帝国なるを自称する賊軍に手も足もでずに負けたらしい」
「聞いた、聞いた。惨敗だったそうだな。しかもヘクトール殿とハーメル様も戦死を遂げたらしいじゃないか。王国最強の魔法騎士も、最高の魔法使いも、最後はあっけないものだな」
「他の魔法使いの方々は、まったく役に立たなかったそうだ。一方的にやられ、殺されたらしい。魔法もほとんど使わなかったそうだ」
「日頃、あんなに威張って権力を振りかざしているというのに、いざという時には役に立たぬ方々じゃて。アスフォール王国は、もうダメかもしれないなぁ」
「しッ! 滅多なことを言うもんじゃない。どこに役人がいるかわからんぞ。下手なことを口にすればしょっ引かれてしまう。いまは静かにしておいたほうがいい」
「その通りだ。いまはまだ、口をつぐんでおいたほうがいい」

 アスフォール軍大敗の一報が入って以降、王都には緘口令が敷かれていたが、人々の口を完全に閉ざすことは不可能であった。人々は市場で、路上で、酒場で、そして家の中で、王国の将来に対する悲観めいた不安を口にしていた。
 だが、その言葉にどこか余裕めいたものが感じられるのは、アスフォール王国惨敗の一報と共に、ラヴァクト帝国の占領下での振舞いも伝わってきていたからであろう。

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プロフィール

ダメ人間

Author:ダメ人間
社会の底辺で生息している「ダメ人間」です。
若くないです。もうおっさんです。
戦記ものの小説を主に書いていますので、どうぞ見てやってください。

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